社員に解雇を通告するときは、ただ「クビだ」と言えばいいというわけでなく、解雇通告のルールを守らないといけません。解雇予告とはどのようなものなのか。今回は意外と知られていない解雇の手続きと注意点について解説します。
1 解雇通告とは
解雇通告とは、文字通り、社員に解雇を通告することですが、法的には少し異なる言い方をします。法的には、「解雇予告」と言って、社員が新たな収入源を得るための準備期間を確保できるよう設けられた制度で、解雇する日の30日前までに、解雇することを予告しなければいけません(労働基準法20条)。
解雇するまでの日数が30日に足りない場合には、その日数分の「平均賃金」を支払うことによって、解雇までの予告期間を短縮できます。このお金を「解雇予告手当」といいます。
解雇予告とは、「30日後に解雇になるよ」とあらかじめ知らせておくことですから、そもそも、解雇自体を有効に行えないといけません。解雇予告さえすれば、どんなときでも解雇ができるというわけではありません。解雇を有効に行うための条件を解雇の種類別に確認しましょう。
2 解雇の種類と条件
解雇には、大きくわけて3つの種類があります。種類ごとに、解雇を有効に行うためにクリアしなければいけない条件がちがいます。
(1)普通解雇
社員の能力不足、長期欠勤や就労不能、協調性不足、余剰人員の整理のために行われる解雇です。無断欠勤を続ける社員や勤務態度や成績が怠慢な社員を解雇するような場合が、この普通解雇です。
少し細かい話ですが、余剰人員を整理するための解雇を整理解雇といい、整理解雇も普通解雇の1つになります。ですが、整理解雇の条件は特殊なので、別に説明します。
普通解雇を有効に行うためには、「正当な解雇理由があること」が必要です。「正当な解雇理由がある」かどうかは
・解雇に客観的合理的理由があるか(解雇に値するだけの理由があるか)
・解雇に社会的相当性があるか(解雇以外には方法がないといえるか)
で判断します。そのほかに
・解雇制限に該当しないこと(労災休業中や産休中、休業明けの30日間)
・普通解雇の意思表示をしたこと
が必要になります。
(2)懲戒解雇
懲戒解雇とは、会社の就業規則に違反したことを理由に、懲戒処分として解雇することをいいます。横領や重大なハラスメントなどで解雇するような場合が、この懲戒解雇です。
懲戒解雇を有効に行うためには、
・就業規則に懲戒事由が定められていること
・懲戒事由に該当すること
・解雇に客観的合理的理由と社会的相当性があること(普通解雇の要件と同じ)
・懲戒解雇の意思表示をしたこと
・弁明の機会を与えたこと
が必要になります。形式的に就業規則の懲戒事由に該当していたとしても、本当に解雇すべきかどうかをきちんと検討しなければいけないので、普通解雇の場合と同じように解雇の客観的合理的理由と社会的相当性を検討することになります。
また、懲戒手続なので、懲戒対象となる社員の言い分を聞く機会を与えることが必須となり、弁明の機会を与える必要があります。
(3)整理解雇
整理解雇とは、余剰人員の整理のための解雇です。経営が悪化してこれまでどおり人を雇うことができない時に人員削減のため行うのが、この整理解雇です。
整理解雇を有効に行うためには、
・整理解雇の必要があること
・解雇を回避する努力を尽くしたこと(人員削減以外の経営改善の努力)
・解雇する人の選定が合理的であること(その人を解雇するきちんとした理由)
・解雇手続が相当であること(解雇の必要性、規模、解雇の基準等について労働者側から納得を得るための説明や努力)
が必要になります。
3 解雇予告のルール
(1)すべての解雇に共通
解雇の予告は、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇のすべてに共通するルールです。つまり、解雇する場合は必ず、30日前に解雇を予告しなければいけないのです。ですが、必ず30日前に予告するとなると、会社としては不都合な場合があります。
(2)即時解雇すべき場合
例えば、懲戒解雇の場合、解雇するほどの重大な違反を犯した社員を、30日間も勤務させるべきでしょうか? このような場合、同時に出勤停止の懲戒処分を言い渡して解雇日まで出勤させない方法もありますが、解雇予告手当を支払って、予告期間を短縮する方法もあります。30日分の解雇予告手当を支払えば、予告期間30日すべてを短縮できるので、即時解雇が可能になります。
また、整理解雇の場合も、すでに業務がなくなっていて社員を出勤させても仕事がなかったり、天災に見舞われるなど即時に会社を閉めなければいけないような場合もあります。このような場合にも解雇予告手当を支払って、予告期間を短縮することが有効です。
(3)解雇の種類を明確に予告
普通解雇の条件と懲戒解雇の条件を見比べてみると、「普通解雇の意思表示をしたこと」「懲戒解雇の意思表示をしたこと」とそれぞれ書かれています。
何を言いたいかというと、社員に解雇することを伝える時、それが普通解雇なのか、懲戒解雇なのか、(もちろん、整理解雇の時も)、解雇の種類をきちんと伝えなければいけません。なぜなら、どの解雇かによって、社員の反論も変わってくるからです。社員が解雇に抵抗しようとする時、「自分については解雇の条件を満たさないから、解雇できないはずだ」と言うわけですが、解雇の条件は解雇の種類によってちがいます。社員が「自分は懲戒解雇されるような悪いことはしていない」と言っても、会社が「いや、うちはもう経営が成り立たないから整理解雇だ」なんて受け応えるようでは、社員の反論が無駄になってしまいます。
解雇の通知をしたこと、解雇の種類を明確にしていたことを記録にするために、解雇の予告は、書面を渡して行いましょう。
(4)平均賃金の計算
解雇予告期間を短縮するために支払う解雇予告手当は、「平均賃金」の何日分というかたちで計算します。
解雇を予告した日以前の直近の給与締日からさかのぼって、3か月分の給与計算期間について、その社員の給与の総額(税引きや控除前の金額。各種手当や残業代を含み、賞与や臨時手当は除外。)をその給与計算期間の暦日(カレンダーの日数)で割った金額が平均賃金になります。
例えば、給与が毎月末日締め(支払日は無視して、直近の締日から過去3ヶ月分の給与で計算すれば大丈夫です)、解雇を予告したのが10月5日としましょう。
その直近の締日である9月30日から遡って、3か月分の給与は、表のようになります。
給与期間 | 暦日の日数 | 給与の金額 |
9月 1日〜30日 | 30日 | 200,000円 |
8月 1日〜31日 | 31日 | 210,000円 |
7月 1日〜31日 | 31日 | 260,000円 |
3か月分の給与計算期間中、給与総額67万円を暦日の総数92日で割ると、平均賃金は一日7,282.6087円になります。1銭未満の端数は切り捨てられますので、平均賃金は7,282.60円です。
仮に、3日分の解雇予告手当を計算すると、21,847.8円になりますが、1円未満の端数は切り捨てられますので、解雇予告手当は21,847円になります。
給料が未払だった場合でも、本来支払われるべき金額をもとに3ヶ月間の給料の総額を計算します。
(5)解雇予告手当が不要な場合
解雇予告手当が必要な場合でも、事前に労働基準監督署長の「除外認定」を受けることで、解雇予告手当が不要になることがあります。「除外認定」を受けられるのは
・災害等のやむを得ない事情で事業を続けられなくなった場合
・解雇の理由が従業員の重大または悪質な行為等によるものである場合
で、整理解雇や懲戒解雇の場合を想定しています。ただし、懲戒解雇の場合、社員自身が懲戒にあたる行為を認めていなかった場合には、「従業員の重大または悪質な行為」があったと認められにくくなってしまいます。
4 まとめ
解雇予告は「解雇予告さえすれば、解雇できる」と勘違いされがちですが、かなり複雑なルールがあります。ミスがあると、解雇そのものが失敗する可能性が高まりますし、たとえ正しい解雇予告をしたとしても、企業側に大きなリスクになりうることもあります。解雇予告通知書の作成・交付は義務付けられていませんが、社員とのトラブルを避けるためにも、必ず書面に残し、慎重に進めましょう。