コラム

欠勤・遅刻が続く社員を退職させるために最初にすべきこと

会社にとって欠勤や遅刻、早退を繰り返す社員は、生産性への悪影響を及ぼすだけでなく、周りの社員の士気の低下や風紀の乱れにつながる頭の痛い存在です。このような勤怠不良の社員を退職させることはできるのでしょうか? 解雇するために会社に必要なものと解雇に成功した事例をご紹介します。

1 解雇に必要なもの

(1)就業規則

解雇には、普通解雇と懲戒処分としての懲戒解雇があります。

懲戒解雇は社員が企業秩序に違反する重大な行為を行ったとき、会社が制裁としてする雇用契約の解消のことをいい、就業規則が必須です。欠勤、遅刻、早退の場合、懲戒解雇にあてはまることも多々あります。

普通解雇は雇用契約で約束した内容に違反したこと、例えば、労務提供をしなかったこと等を理由とする契約の解消にあたるため、就業規則は必須ではありません。しかし、就業規則がないと適正な基準で解雇したといいにくくなることから、就業規則なしで普通解雇をした場合、解雇が無効になる可能性が高まります。

(2)解雇権濫用法理に注意

就業規則の解雇事由に当てはまりさえすれば、解雇ができるわけではありません。労使の力関係には差があることから、会社側が解雇をする際には、会社が持っている解雇権を濫用してはいけない(解雇権濫用法理)という制限があります。これをクリアするためには

・解雇の客観的合理的理由

・解雇の社会的相当性

が必要です。

客観的合理的理由とは、解雇をするに値する事実があること。社会的相当性は、解雇をする他に方法がないことです。

欠勤、遅刻、早退での解雇の場合、客観的合理的理由が認められるためには、会社側の管理体制に不備がないか、同様の事例での従前の処分実績、欠勤等の理由、頻度や期間、業務に支障が出たか、といった事柄を考慮しなければなりません。

たとえば、宿直勤務の際に二度にわたり寝過ごし、定時ラジオニュースを放送できなかったアナウンサーに対する普通解雇が無効とされた例(高知放送事件=最判昭52・1・31労判268・17)があります。

寝坊でラジオ放送ができなかったという重大な結果を招いていても、当然に解雇できるわけではないのです。

また、社会的相当性がないと解雇は無効とされます。たとえ欠勤などの規律違反があったとしても、指導やより軽い懲戒処分を行った形跡がないと、改善の機会を与えないまま解雇をしたとみなされ、解雇権の濫用となります。

2 解雇ができる事例

(1)労働基準監督署の基準

解雇に関する行政通達(昭23・11・11基発1637、昭31・3・1基発111)で、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」が「労働者の責に帰すべき事由」の具体例として挙げられています。無断欠勤による懲戒解雇については、連続して2週間が一つの目安といえます。

(2)解雇に成功した事例

どの程度の欠勤、遅刻、早退であれば、解雇が可能になるのか。解雇に成功した事例4つを参考にしてみましょう。

懲戒解雇

①全出勤日数の3分の1にわたり業務上の必要性の認められない不出社を繰り返し、会社から度重なる注意・指導及び譴責処分を受けたにもかかわらず、その後も業務上の必要性が認められない半日ないしそれ以上の外出を行ったことを理由とする諭旨解職処分が有効とされた例(東京電力(諭旨解職処分等)事件=東京地判平21・11・27労判1003・33)

②事前の届をせず、欠勤の理由や期間、居所を具体的に明確にしないまま2週間欠勤を続けた労働者に対する懲戒解雇処分が有効とされた例(開隆堂出版事件=東京地判平12・10・27労判802・85)

普通解雇

①区議会議員を兼務していた従業員につき、公務のため、今後所定労働日数の約4割の欠勤が見込まれること等を理由になされた普通解雇が有効とされた例(パソナ事件=東京地判平25・10・11労経速2195・17)

②四度の長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多く、その総日数が約5年5か月のうちの約2年4か月に及び、長期欠勤明けの出勤にも消極的な姿勢を示し、出勤しても遅刻が非常に多く、離席も多かった労働者の普通解雇が有効とされた例(東京海上火災保険(普通解雇)事件=東京地判平12・7・28労判797・65)

連続欠勤の場合は2週間、欠勤や遅刻や早退を繰り返すことで断続的に勤務が中断してしまう場合は3〜4割程度の勤務中断がある場合には、解雇が有効になる傾向がありそうです。

また、多くの事例で、会社が注意や指導を繰り返しているにもかかわらず、欠勤等が改まらないことを解雇を有効にするための要素ととらえています。

3 最初にすべきこ

会社として事態に対処するために、まず初めにすべきことは、指導をすることです。なぜ欠勤、遅刻、早退を繰り返してしまうのか事情を調査した上で、丁寧に指導します。指導をしないと、見過ごしている、許していることになってしまいます。

そして、併せて行わなければならないのは、指導の記録化です。いくら指導を繰り返しても、口頭だと証拠になりません。いつ、誰に、どのような指導をしたのか、メモ程度の業務報告でも構わないので、必ず記録に残しましょう。

さらに、指導をした上で改まらない場合は、戒告・譴責や減給などの軽めの懲戒を必ず実施しましょう。会社側の解雇を有効にするためには、指導と懲戒処分を積み重ねることが不可欠です。

4 まとめ

職務怠慢は目につく行為ですが、処分をしようとする前に、自社の就業規則やルールを確認し、冷静に対応を検討することが重要です。欠勤や遅刻、早退を繰り返す社員でも、容易に解雇できるわけではありません。

まずは指導から始め、軽めの懲戒をし、解雇の基準を確認するステップを間違えないようにしましょう。

PAGE TOP