コラム

うつ・メンタルヘルス不調の従業員がいる会社の相談の仕組のつくりかた

あなたの会社にはメンタルヘルスに関する相談窓口が設置されていますか? 従業員のメンタルヘルス対策として、気軽に相談できる窓口を設置することが有効です。メンタルヘルスの問題というと、休職や退職を思い浮かべますが、このような状態に至る前段階も当然存在します。従業員がメンタルヘルスを悪化させることなく、安心して働けるよう相談窓口を活用しましょう。

1 うちには必要? 相談窓口が必要な理由

企業や事業主などの使用者には、安全衛生法によって従業員の心の健康を保つ義務や、安全配慮義務が課されています。従業員のメンタルヘルスに配慮することは、使用者の責任といえます。

では、どんな措置を実施する義務があるのでしょうか。使用者には健康診断を受けさせる義務やストレスチェック(ただし、50人以上の事業場に限る)を行う義務がありますが、メンタルヘルスの相談窓口を設置することは、法的な義務ではありません。しかし、厚生労働省の「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」では、相談窓口の設置は、企業が行うべき予防対策の1つであると打ち出しています。 現実には、メンタルヘルスの相談窓口を設置している会社はまだまだ多くはありません。ですが、相談窓口を設置して、従業員のメンタルヘルスのケアを行うことは、離職者や休職者を減らすことにつながります。離職者や休職者が少ない人の定着する会社では、生産効率を維持することができますし、採用や教育のコストも自ずと少なくなります。実際、相談したところで悩みがすべて解決するわけではありません。しかし、多くの相談者が「心が軽くなった」「気持ちが楽になった」という経験をしています。従業員のメンタルヘルスをケアすることは、使用者の経営を良好にすることにもつながるのです。

2 相談窓口の設置の5つの手順

実際に相談窓口を設置するとなると、次のような5つのステップを踏むことになります。

(1)設置方針の決定

まず、取締役会や衛生委員会(設置していない会社もあります)など、経営者が中心となって、相談窓口を設置すること、設置の目的、利用時間や利用方法などの運営の方針、相談を受けた後の対処方法など、相談窓口を設置するうえでの方針を決定します。

(2)相談対応者の決定

相談対応者には社内の人間を選んでもいいですし、外部の専門家(保健師や有料の相談対応サービス)に委託しても構いません。社内の人間を担当者にする場合には、研修を行う他、対応のマニュアルを整備することが必要になります。

(3)相談窓口の開設

利用の申込方法や対応時間、相談場所などを決め、相談窓口を開設します。

(4)相談窓口の周知

相談窓口が設置されたことを社内に通知します。従業員向けにお知らせを配布する他、社内にポスターや張り紙を掲示するなどの方法があります。時には社員の家族がきっかけとなり、メンタルヘルス不調に気づく場合があるので、家族向けのお知らせを用意するのも有効です。

(5)相談対応

相談の申込があった場合には、すみやかに相談に対応します。相談を受けた後にどう対応するのかも、あらかじめマニュアルを作っておくとスムーズに問題解決につなげられます。

3 相談窓口を運用する5つの注意点

(1)プライバシーへの配慮

メンタルヘルスの不調に関する相談は、プライバシー情報になります。情報が無関係な部署に流出したり、本人が望んでいないのにトラブルの相手に事情が知られてしまうことのないように、管理を徹底しましょう。相談をためらわせないために、プライバシーが守られるということを周知することも大切です。また、相談情報を衛生委員会(50人以上の事業場で設置するものです)や人事部、上司などに報告し、共有する必要があるときには、本人に同意書を書いてもらってからにしましょう。

(2)不利益な取扱いの禁止

メンタルヘルスの不調を相談したこと自体を不利益に扱ってはいけません。メンタルヘルスの不調があるために、業務を軽減しなければならず、その結果給与が減るということはやむを得ないことであり、不利益な取扱いの禁止に反することにはなりません。ですが、例えば、相談内容が会社にとって好ましくないことだった場合や医師からは業務軽減の必要がないと判断されているのに無理矢理仕事をとりあげてしまうなど、相談をしたことそれ自体を問題にして不利益な取扱いをするような行為は、あってはならないことです。

(3)相談対応者の選定

相談対応者はかたちだけのものではく、会社が負っている従業員への安全配慮や心の健康保持の義務の一翼を担う者です。特別な資格が必要なわけではありませんが、きちんと研修を施し、働く人の権利や健康保持、コンプライアンスに対する意識を培い、社内の規定を理解している状態にしましょう。

(4)複数の相談方法

利用者の相談の便を考えると、相談方法は複数用意しておくのがいいでしょう。例えば、相談時間の枠を複数用意したり、相談方法を対面だけではなく、電話やメールも可能にするなどの工夫をしましょう。

(5)社外の資源の活用

専門的な知見に基づくアドバイスが必要になる場合もあります。社外の資源として、会社が社外の専門家に相談できる道(保健師、心理士、社労士や所属団体の厚生サービス)や外部の相談機関での相談を後押しできるように、活用できそうな制度やサービスをあらかじめ調べておくといいでしょう。

4 相談窓口の活用方法

(1)相談窓口の意義の明確化

メンタルヘルスの相談窓口は、従業員の心の健康保持のために設置されるものです。そこで発見された問題について、人事部門や管理部門と連携しながら解決に進みます。

逆に、相談を受けても、会社側では解決できない問題もあります。例えば家庭内でのストレスや労働者同士の不仲など会社が介入してまで対処する問題ではないこともあります。

このような相談窓口の意義を意識していないと、会社が相談を受けただけでその後の対処を怠ってしまったり、従業員の方が解決の期待を高く持ちすぎて失望してしまうことにつながります。「相談しても何も解決しなかった」と思われることのないようにしましょう。

(2)繰り返しの周知

相談窓口の周知活動は、繰り返し行うと効果的です。一度の周知だけでは、従業員はあまり意識しません。繰り返しお知らせを配ったり、「相談月間」などと評してアナウンスするなど、繰り返し周知活動をするのが有効です。

(3)社内連携

メンタルヘルス相談は、相談を受け、話を聞いてあげることだけで完結する場合もありますし、相談内容で明らかになった問題を他部署と連携して解決しなければならない場合もあります。相談担当窓口だけで抱え込むのではなく、経営者、人事部門、管理部門、衛生委員会(50人以上の事業場で設置するものです)、産業医、保健師などと連携するネットワーク、連絡手段を確立しておきましょう。

5 まとめ

相談窓口の設置は、会社にとっては負担の大きいことと思われるでしょう。そのため、かたちだけ担当者を任命してしまうケースもありますが、付け焼刃で担当者に相談対応をさせてしまうと、相談者が会社に不信を抱いたり、修復しがたいトラブルに発展してしまう場合もあるので、注意が必要です。

安心して働ける職場環境を作る上で、社内相談窓口を設置し、充実した相談体制を築くことは、大きな意味があります。助けを求めることができるという安心感が、従業員の心の健康にもよい影響をもたらすからです。相談窓口を設置し、適切に運営していきましょう。

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