コラム

問題社員を自分から退職させるために指導者がすべきこと

問題社員を自分から退職させるためにはどうしたらいいか? 指導者にとって頭の痛い問題ですが、適切な指導をするためには、正しいルールを確認することが不可欠です。また、処分に至るプロセスも重要になりますので、順を追ってご説明します。

1 状況の整理

問題社員の日常業務を精査することから始めましょう。

(1)何ができないのか、(2)会社の求める水準はなにか、(3)改善のために何をさせたいか、を確認する必要があります。仕事ができなくて辞めさせたい社員がいる、という社長に「仕事ができないって、具体的に何ができないんですか?」「それができないのがどうして問題なんですか?」と聞くと、意外と問題点が整理できていないケースが多く見受けられます。

問題点が整理できていないまま闇雲に指導をしても、効果をあげられないばかりか、人格攻撃や過大な要求をしてしまい、結果誤った指導をしてしまうことがあります。

まず問題となる社員の1つ1つの行動について、(1)何ができていないのか、何が悪いのかを見直し、(2)それがどうして悪いのか、どうなってほしいのか、会社の求める水準は何かを確認し、(3)改善のために何をさせたいかを検証してください。

2 雇用契約書の確認

続いて見直しておきたいのが、雇用契約書の記載内容です。雇用契約とは、雇用主(企業/経営者)と雇用される労働者の間で結ぶ契約のことです。労働者が、従業員として会社に労務を提供することを約束すると同時に、雇用主がその労働に対する賃金を支払うことを約束する契約です。

雇用契約書には必ず、労働契約の期間、就業場所、従事する業務の内容、始業時刻と終業時刻、交代制のルール(ある場合)、残業の有無、休憩時間・休日・休暇、賃金の計算・支払方法、締切日、支払日、退職や解雇に関する事項が書かれています。

仕事ができない問題社員を指導する際、就業場所、従事する業務の内容、始業時刻と終業時刻、残業の有無を確認してください。雇用契約に反する指導は行えないので、指導できる内容の限界を確認する必要があるからです。

具体例を示しましょう。

例えば、就業場所がA支店に限られているのに、より簡単な業務があるからといってB支店での業務を指示することはできません。また、仕事が遅い社員に対して、始業時刻より前に来て仕事の準備をするように指示することもできません。

従って、他の社員の水準まで引き上げようと、その社員に対して特別に研修や指導をする場合、始業時刻より前や終業時刻後に一人残らせることもできないのです。研修や指導も労働時間に含まれるので、必ず勤務時間内に行うようにしましょう。もちろん、休日に呼びつけて出勤させて、研修や指導を行うこともできません。勤務時間外や休日に研修や指導をするのは、残業扱いになるため、残業代が発生することになります。勤務時間内に実施できない理由がないかぎり、避けた方がいいでしょう。

3 就業規則の確認

雇用契約書と併せて、就業規則についても確認しておきましょう。

(1)働き方の確認

就業規則には雇用契約書に書かれていない決まりが網羅されています。就業規則でも、就業場所、業務の内容、始業時刻と終業時刻、残業のルールに関する項目を確認しておく必要があります。なぜかというと、雇用契約書よりも細かなルールが記されている場合があるからです。もし、雇用契約書より細かなルールが記載されていたら、就業規則のルールに従うものとします。

また、就業規則の記載と雇用契約書の記載が矛盾する場合は、基本的には就業規則に書かれていることが優先されます。なぜなら、就業規則は、労働条件と会社で働く上で守るべき最低限のルールを記したものなので、就業規則に書かれていることよりも、社員にとって不利益になる雇用契約を結ぶことは許されていないからです。

多くの企業で、就業規則は一度作れば、それっきりになっており、中には、実際の仕事のさせ方が就業規則で定めたルールとは違ってきている場合もあります。ですから、就業規則の改訂も検討しつつ、現行の就業規則に反しない指導が必要になります。

(2)懲戒手続の確認

仕事ができない社員に対し、指導をしても反発して従わなかったり、重大なミスを犯したり、看過できない事案が発生する等、場合によっては懲戒手続きをとることもあります。そのために、事前に就業規則で懲戒の項目、具体的には、懲戒の種類、懲戒の対象となる事由、懲戒の手続について確認しておきましょう。

懲戒の種類は戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇の7種が定められていることが多く、最初に表示されているものほど懲戒としては軽いとされています。いざ、懲戒するとなった時、どの種類を選択するかが重要になりますが、違反の重さに見合った懲戒をするのが基本です。また、社内の前例と照合し、前例に倣った処分にする必要があります。同じ違反行為に対しては、特別な理由がない限り、同じ種類・程度の処分にしないといけません。過去の同様なケースを無視することはできず、社員を平等に取り扱うことが原則とされています。まずは軽い種類の懲戒から実施するのが基本であると、覚えておきましょう。

懲戒手続も就業規則に定めてあるものに従います。例えば、懲戒手続を行う時に「諮問委員会を開く」と書かれている場合があります。実際には今、諮問委員会が存在しなかったとしても、懲戒をする時には諮問委員会を組織して、開かなければいけません。諮問委員会を開かないで行った懲戒処分は、就業規則に違反していて手続きが適正ではないので、その懲戒処分は無効と判断されます。

逆に、就業規則に弁明の機会の付与(懲戒をする前に、本人から話しを聞く機会を設ける)が書かれていない場合があります。弁明の機会の付与については、就業規則に書かれていなくても、実施は必ず必要です。懲戒手続のなかでは、本人の言い分をしっかり聞くプロセスは不可欠だと考えられているからです。事情聴取がないと懲戒事由の該当性の判断自体ができないケースもあります。

手続違反の懲戒は、ほぼ、無効になります。それだけ、懲戒をする上で適正な手続は重要です。就業規則に記載されている手続と弁明の機会の付与は必ず実施するようにしてください。

4 期限の確認

問題社員との雇用期間についても今一度確認する必要があります。

(1)試用期間中

試用期間が終わり、本採用になる日を確認する。本採用になる日の30日前には、本採用をするかしないか決定し、本採用をしないのであれば、本人にそのことを通知します。

(2)有期雇用

1つの雇用期間が終わる(更新日)タイミングを確認する。何もしないままでいると、更新日に新たな雇用契約が始まってしまいます。更新日の30日前には、更新をするかしないか決定し、更新をしないのであれば、本人にそのことを通知します。

試用期間や有期雇用の期間が終わる日の30日前、これが、解雇や自主退職をさせる1つのタイミングといえます。なぜなら、本採用、あるいは契約を更新した後では、その時点では働きぶりに問題がないと判断した、と見なされるからです。従って、問題社員に対して自主退職を目指すのであれば、雇用期間の切り替わりのタイミングを見据えて対応するのが望ましいといえるでしょう。

5 まとめ

問題社員を自分から退職させるためには、段階的に対応する必要があります。時には懲戒処分を選択する場合もありますが、懲戒処分の妥当性は、処分そのものよりも、その処分決定に至るまでのプロセスにあります。特に怠りがちなのが、初動の「状況確認」と「問題社員の弁明を聴く」ことです。状況確認をしないと適切な指導は行えませんし、弁明を聴かずに処分を行うと、客観性に欠けると見なされるので、注意が必要です。

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