コラム

【事例】業務命令に従わない反抗的な部下を退職させた方法

上司に反発する部下の対応に頭を悩ませている経営者は多いのではないでしょうか。反抗的な態度を取る部下に対しては、業務指導を繰り返しているだけでは、なかなか改善や反省が見られない場合があります。業務指導に対しても反発する部下には、一歩踏み込んだ措置をとる必要が出てくるでしょう。今回は、このような問題社員を自主退職させた事例をご紹介します。

1 上司に反発する部下

X社はトラック運送を営む会社です。拠点のひとつである営業所に、社長の息子が新たに所長として配属されることになりました。しかし営業所の古参の従業員Aは、所長が自分より年下で現場経験が浅いことから、「あんたのやり方じゃ現場は回らない」と反発ばかりしていました。具体的には、会社から指示したとおりの業務を行わず、自身で判断したルートで運送したり、慣れ親しんだ荷主の元には平気で遅刻していくなど、独断的な行動がしばしば見受けられました。また、従業員の前で平気で所長の批判をしたり、所長に対して大声で反論することがあったため、他の従業員の間でも、所長を軽んじても良いような風潮が出てきていました。

2 解雇できるか

(1)裁判例のポイント

従業員のAのように上司にあからさまに反発し、輪を乱す社員でも、解雇にはリスクがあります。過去の例をいくつかご紹介しましょう。

裁判例1:年下の女性上司に反発した社員を解雇した事案。上司への個人的な反発心が背景にあることから、他の上司の元に付けるなどの機会を与えるべきであったとして、解雇を無効に。

裁判例2:業務命令違反を繰り返す社員を解雇した事案。業務命令がすべて口頭で行われ、業務命令をした証拠がなく、解雇が無効に。

裁判例3:業務命令違反を繰り返す社員を解雇した事案。解雇の前に、懲戒などで改める機会を与えるべきだったとされ、解雇が無効に。

従業員Aには、上司に反発したり、運送の仕方にルーズなところがあり、その行動は看過できません。しかし、新任の上司への信頼感を築くには日が浅いことや、会社側がルート指示や延着時の対応について明確なルールを定めていなかったことを考慮すると、解雇をする前に会社として更なる指導を尽くすべき状態です。つまり、「解雇する以外に方法がなかった」とは言えず、解雇の条件の1つである、「社会的相当性」が認められないということになります。

解雇の条件とリスクについては【いらない社員を辞めさせる唯一の方法、知っていますか?】をご参照下さい。

(2)退職勧奨へ

そこで従業員Aに対しては、業務命令を発しつつ、業務命令違反があった場合に懲戒をし、その上で退職を促す対応をとることにしました。

3 業務命令を書面で

(1)業務命令が可能な範囲

業務命令は雇用契約の範囲内のことであれば、必要に応じて発することが可能です。例えば、土日に勤務を指示することがあると雇用契約書にあれば、土日の休日出勤を命じることが可能ですし、一見業務とは直接関りがないように思える健康診断や産業医などの受診命令も可能です。

X社では従業員Aに対し、「会社の指示した運送ルートを遵守すること」「到着が遅れると見込まれる場合には、必ず事前に到着先に一報を入れること」を命じました。従業員Aの場合、新任所長への発言や行動に問題があるのですが、「所長に反発しないこと」という命令では、いささか抽象的なため、従業員Aとしても何を守らなければいけないのかわからなくなります。業務命令を出す際は、行動を絞った上で、それに対処するために何を命じればいいのか、具体的に考えることが大切です。

(2)ハラスメントに注意

業務命令を発する際、気をつけなくてはならないのは、雇用契約の範囲外の命令や、明らかに不必要な、嫌がらせ的な命令をしてはいけないということです。例えば、勤務外の親睦目的の飲み会への参加を命じることや、倉庫の整理を何日も1人で行わせるなどの行為は、ハラスメントにあたるので注意が必要です。

(3)必ず書面で

業務命令は必ず書面で行わなければなりません。裁判例2でも、口頭で業務命令をしていたために、証拠がないことから、業務命令の存在自体が認められませんでした。業務命令の存在が認められないと、業務命令違反にもなりませんので、その後の懲戒や退職の打診に進むことができなくなります。

4 懲戒手続

(1)業務命令違反

業務命令を発したにもかかわらず、その通りに業務を行わなければ、業務命令違反になります。社員に業務命令違反があれば、速やかに懲戒手続を取りましょう。業務命令違反が認められたにも関わらず、懲戒をせずに見逃したり、口頭注意くらいで済ませると、結局、業務命令違反はその程度の問題性しかないと認めることになります。

従業員Aは、業務命令書を受け取った翌週に、勝手に運送ルートを変更する業務命令違反が明るみになりました。配送先の中には配送時間を指定しているところや営業時間が決まっているところも多く、配送ルートを決める際にはこういった訪問時刻の制約にも縛られることになります。また、荷物の積み込みや積み下ろしに時間が掛かってしまう場合もあるため、各配送先の滞在時間についても常に考慮しなければなりません。こうした様々な案件を考慮した上で、最適なルートを会社側が設定したにも関わらず、独断でルート変更するという行動は、効率だけでなく、客先ごとの優先度や運送中の安全管理にも影響を及ぼします。

(2)弁明の機会

懲戒するためには、弁明の機会を与えることが絶対に必要です。弁明の機会を与えずに行った懲戒は、たとえ業務命令違反があっても無効になります。反対に、弁明の機会は与えさえすればいいので、本人が呼び出しに応じなかったり、業務命令違反の事実を否定する弁明をしたとしても、違反の事実を確かに掴んでいれば、問題はありません。注意しなければならないのは、呼び出しの際、何のための呼び出しであるかをきちんと伝えること。そうでないと、不意打ちになってしまい、本人は有効な弁明ができないからです。「とにかく話があるから、残れ」というのは、弁明の機会を与えたとはいえません。

従業員Aに対しては、何月何日の運送ルートの無断変更が業務命令違反にあたり、懲戒処分を含めて検討するため、弁明を聞きたいと通告し、弁明の機会を設けました。そこで、従業員Aからは、運送ルート変更について、「その場で自分が効率の良いと思ったルートを選択した」と弁明がありました。一方、会社側も当日の運送業務全体を勘案してルートを指定していることや、ルート変更を会社に相談して指示を仰がなかった言い訳にはならないと説明しました。

(3)懲戒処分を実行

懲戒処分を行う際は、戒告やけん責などの軽めの処分から下すようにします。たとえ違反といえども、一つの指示に違反したに過ぎないからです。また、以前からの違反や態度を理由に一段階処分を重くすることはできません。もちろん、指導をしていく中で、備品の横流しや不正会計など、より重い事実が発覚した場合には、減給や降格といったより重い懲戒処分も検討できます。

X社は従業員Aに対して、けん責の懲戒処分を言い渡し、反省文の提出を課しました。

5 退職勧奨

(1)退職勧奨のタイミング

退職勧奨をして退職を拒否された場合でも、その後に再び退職勧奨をすることが全くできない訳ではありません。しかし、退職勧奨を頻繁すると、相手の反発も強くなりますし、会社側が退職を強要している色合いが強くなってしまうので、タイミングの見極めが重要です。

闇雲に退職を勧めるのではなく、業務命令違反の事実を確認し、弁明の機会を与えてから行う、あるいは、懲戒処分と同時に行うのがいいでしょう。本人が自分の働き方の問題性を全く認識していない段階で退職を勧めても、意味がないからです。

従業員Aの場合は、懲戒処分を言い渡した時に、退職を勧めたところ、本人から「少し考えさせてほしい」という答えがあり、翌週に退職を申し出たため、退職の合意書を作成することになりました。

(2)労働組合に駆け込まれたら

元々、反発しがちな社員の場合、会社から懲戒されたり、退職を勧められたりしたら、労働基準監督署や労働組合に駆け込むことも想定されます。しかし、証拠があり、会社が行き過ぎた対応をしていなければ、会社が臆することはありません。処分を下した経緯を説明し、会社の立場を明確にすればいいので、冷静に対応しましょう。

6 まとめ

声の大きい社員がいると、感化される社員が現れたり、迷惑がって働きづらく思う社員が出るなど他の社員にも影響を及ぼします。社内規則に違反するような問題行動を起こした場合には、会社側は断固たる措置が必要です。しかし、肩に力が入りすぎて行き過ぎた懲戒をしたり、強い口調であたってしまったりしないように注意をしてください。

今回の従業員Aの場合、元々、職場で幅をきかせていた分、自分が会社で好きなように振舞えるという自意識が強く、業務指導を無視し、反抗的な態度がエスカレートする傾向にありました。会社からこれまでの指導より一歩踏み込んだ業務命令を出されたり、懲戒をされたことで、弱気になり、自分の振る舞いが今後は許されないと自覚したことが、退職成功の鍵となったのです。

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