就業規則を作る場合、どんなことから取り掛かればいいか、戸惑ってしまう方も多いと思います。今回は就業規則を完成させるまでのイメージがつくように、作成の手順を解説します。
1 ルールの洗い出し
(1)現状の社内の慣行
就業規則は会社のルールになるものですから、会社の実態と一致していないと意味がありませんし、トラブルの元になります。そこで、現在、会社ではどんな慣行があるか、どんなルールがあるか、実態を洗い出すことが必要です。洗い出してみると、一見、ルールがあるようで、あいまいなところが見受けられたり、好ましくない慣行がある場合があります。社内慣行を洗い出すなかで、ルールとして就業規則に残すものと、残さないものを取捨選択しましょう。
(2)追加したいルール
現状の社内慣行の洗い出しをしていると、こういうルールが不足しているな、こういうルールがあったらいいな、と追加したいルールや制度が出てくることもあります。こういった新たに追加したいルールや制度を漏らさず規定できるように把握しましょう。
2 法令違反のチェック
就業規則が会社のルールになると言っても、法律に違反するようなルールは作れません。作ったとしても、その部分は無効になってしまいます。就業規則に盛り込みたいルールや慣行の洗い出しが完了したら、それらを法律に照らし合わせて、問題がないかチェックしましょう。
法律というのは、こまかな施行規則や新たに出た判例を含めると、割と頻繁に新たな規制(禁止されること)が出てきます。こういった法律違反を見落とさないように、時には専門の就業規則の本や社労士の力を借りることも必要です。
例えば、法律で、1日の定時の労働時間(所定労働時間)は8時間以下、週40時間以下にしなければならないと定められています。それなのに、定時で10時間勤務になるようなことを就業規則に定めるのはいけません。
3 原案の作成
(1)内容の章立て
就業規則に定めたい内容が固まってきたら、就業規則の章立てを決めます。章立てとは、就業規則の骨格のようなイメージです。一般的には、「総則」、「採用」、「服務」、「労働時間・休憩・休日」、「賃金」、「退職」、「安全及び衛生」、「教育訓練」、「表彰及び懲戒」という項目があります。項目の名前や種類、数、順番などに決まりはありません。
(2)絶対的記載事項
就業規則を作るならば、必ず記載しなければいけないことがあります。これを、「絶対的記載事項」といいます。次の事柄は、絶対に記載しなければならないとされています。
・始業及び終業の時刻、休憩時間
・休日、休暇
・シフト交代制の場合にはシフト交代時間のルール
・賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締日、支払日、昇給のルール
・退職に関する事項(解雇の事由を含む)
(3)相対的記載事項
ルール化したいのなら、就業規則に記載しないと効力が発生しないことがあります。これを「相対的記載事項」や「任意的記載事項」といいます。つまり、就業規則に書いてないのに、「これがうちの会社のルールだから」と言って押し付けてはいけない事柄です。会社で採用しないルールについては就業規則に規定する必要はありませんが、採用したいルールがあれば、就業規則に規定しないといけません。例えば、次のような事項は、相対的記載事項にあたります。
・退職金に関する事項
・ボーナスや最低補償に関する事項
・労働者に食費・作業用品等の負担をさせる場合の事項
・安全や衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償及び業務外の疾病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・以上のほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定め
上記の項目は絶対に就業規則に記載しないといけないものではありませんが、これらの項目に関する決まりを定める際には合わせて記載しないといけません。
例えば、退職手当はすべての事業所で決められているものではないため、必ず就業規則に記載しないといけないものではありません。しかし、退職手当の制度を設けるのであれば、必ず就業規則に記載しないといけない、ということです。
(4)明確な内容
就業規則は、従業員に対するルールなので、従業員が読んで分かりやすい内容にしましょう。多義的な言葉を使っていたり、意図を汲ませるような書き方をしていると、後々のトラブルの元になります。
例えば、「ボーナスは、算定対象期間を1月1日~6月30日とし、7月20日に支給する」 と規定した場合を考えてみましょう。期間途中の4 月1日に入社した人や、6 月30 日に退職した人にボーナスを支給するのか否か等、明確ではありません。ボーナスを支給する対象者を、入社して6か月を経過している者に限定したり、支給日に在籍している者に限定するなど、工夫が必要です。
(5)モデル就業規則に注意
どのような就業規則を作るか参考になるものとして、厚生労働省が発表しているモデル就業規則があります。ですが、このモデル就業規則だけを参考にするのは得策ではありません。なぜなら、厚生労働省のモデル就業規則は、厚生労働省が普及させていきたい制度を盛り込んでいるからです。それらの制度は、法律的に必須のものではないのですが、そういった注意書がなく、さも当然の様に記載されているので、モデル就業規則だけを参考にすると、会社の実態と合わない就業規則が出来上がってしまいます。面倒でも、必ず複数の就業規則を参考にするべきです。
4 従業員の意見聴取
就業規則が出来上がったら、従業員の意見を聞く必要があります。従業員への意見聴取の具体的な方法としては、従業員の過半数で成り立っている労働組合の意見を聴くか、このような労働組合がない場合には、従業員の過半数を代表する者(従業員代表者や過半数代表といいます)の意見を聞き、意見書に署名をもらうことです。この意見書は、就業規則と一緒に労働基準監督署に提出しなければいけません。
この意見書は、意見を聴いて署名さえもらえばいいので、例え従業員の半数が就業規則に反対していたとしても、会社の原案どおり、就業規則は成立します。 従業員の過半数で組織する労働組合がない場合には、従業員の過半数を代表者する従業員代表者からの意見書が必要になりますが、この従業員代表の選び方に注意が必要です。従業員代表は、従業員の互選で決められなければいけません。例えば、従業員全員に参加の機会を与えて選挙をするとか、挙手制にするなどの方法で選ぶ必要があります。よく見かける例ですが、会社の側から、目ぼしい人に声をかけて、従業員代表をするように頼むのは、違反になります。
5 労働基準監督署へ提出
完成した就業規則は、従業員代表の意見書と一緒に、労働基準監督署に提出します。まれに、労働基準監督署に提出していない(受付の印が押されていない)就業規則を使用している会社がありますが、これでは、就業規則の効力が発生していません。効力の発生していない就業規則で従業員に不利益処分をする(例えば、懲戒したり、解雇したり)と無効になってしまいますので、提出するところまでを確実にやりましょう。
それから、就業規則は、会社の見やすい場所や誰でも手に取れる場所に備え付けておく他、インターネットで閲覧可能にし、従業員全員にURLを通知する等の方法がお薦めです。一部の従業員に口頭で周知したとしても、効力は認められません。実際に従業員が就業規則の内容に目を通している必要はありませんが、見ようとすればいつでも見られる状態にしておかなければいけないので、注意が必要です。
6 まとめ
就業規則は、企業経営を行う上で非常に重要です。しかし、その作成には、意外と手間がかかるものです。大切なのは、会社の実態に合った就業規則にすることと、複数の就業規則の例を比較検討して、抜け漏れや違和感のない記載にすることです。
企業固有の就業規則をしっかり整備しておくことは、従業員との無用なトラブルを避け、安心して働く環境を整えることにもつながります。