コラム

辞めさせたい部下とトラブルにならないために必要な実践的対処法

辞めさせたいと思うような仕事のできない部下、反発ばかりする部下を指導する時、何より大切なのは、間違った指導をしないこと。対応を誤ると、言った言わないの水掛け論に発展したり、パワハラだと騒がれてしまったりすることがあるので、注意が必要です。

1 会社のルールの確認

指導をする際、なぜ間違った指導をしないことが第一に求められるのでしょうか? 理由は2つあります。間違った指導をしてしまうと、辞めさせたいと思っている部下が反発して言うことを聞かなくなる恐れがあります。更に、不当な指導をしたということで、会社がパワハラの責任を負ったり、指導違反をした部下に対して処分を下せなくなることもあります。間違った指導に違反しても、それは誤りではないと見なされるからです。また、雇用契約の範囲を超えた指導はできないので、雇用契約書も今一度確認をしておきましょう。雇用契約書の内容や就業規則の内容の確認については「問題社員を自分から退職させるために指導者がすべきこと」をご参照ください。

(1)現場のルールの確認

「仕事ができない」「指示したとおりにやってくれない」とは言っても、案外、ヒアリングをすると、会社のルール事態があいまいなことも見受けられます。規定そのものがあいまいなままでは、適正な指導は行えません。まずは日頃、どのような手順で仕事をしているのか、どんな禁止事項があるのか、守らせていることは何か等、現場のルールの洗い出しをしてみましょう。 誰が見てもわかるように、手順やポイントをかんたんな文章や表などにまとめておくと、指導する側も現場のルールからそれることなく指導ができますし、部下が仕事を覚える際にも活用できます。

(2)実践度合いの確認

ルールがあるからと言って、それが現場で実践されているとは限りません。忙しい時には省いてしまう作業や、現場の体制が変わって、今ではまったく実施されていない作業、作業手順や優先度が人によって違う作業もあるでしょう。現場での実践度が低いのに、特定の部下にだけ指導をするのは公平ではありません。公平な指導をしていないとなると、その指導自体が退職に追い込むための狙い撃ち目的と見られてしまいます。そのような不当な指導に部下が従わなかったとしても、部下を処分することもできなくなってしまいますし、(指導を守らなかったことで)部下の勤務態度が悪いとも評価できなくなってしまいます。 守るべきルールだけど、実践できていないのなら、皆に平等に指導の機会を与えること、また、現状と合わなくなっているものについては、皆で協議し、現状に即した形での見直しが求められます。

(3)労働者の権利の確認

休憩の取得、有休休暇、残業代の支払、産前産後休業、男性の育児休業、個人情報やプライバシーの尊重など、労働者の権利に関する基本的な事項を今一度見直しておきましょう。これらの権利を侵害するような指示・指導をしないよう、注意が必要です。例えば、いくら仕事が遅いからといって、休憩時間を削ってまで働かせたり、日頃の勤務態度が悪いからといって有給休暇の取得を断ったりしてはいけません。違法・不当な命令は、使用者の権利の濫用に当たるとみなされます。

(4)裁量の確認

会社が従業員に対しどのような指示ができるかについては、会社の「裁量」に委ねられています。つまり、指示の内容は会社の判断に任されており、会社は自ら判断し、従業員に指示することになります。例えば、今までやらせていなかった作業でも業務に必要があれば従事させることができますし、規定になかったことでも、新たなルールとして定めて実施させることができます。従って、会社が従業員に何をやらせることができるか、ということについては、かなり「裁量」に幅があり、その分、具体的な場面で「こんな指示はできるのか」「この指示をしたらマズイんじゃないか」と迷うことも出てくると思われます。その際、判断する上での考え方は次の通りです。

基本的に、「業務のために必要があること」。業務をより良くするため、のことであれば、従業員に指示してやらせることができます。特に、必要性が高く、業務の流れの根幹にかかわること、失敗すると大きな金銭的な損失を発生させるもの、生命・身体・衛生にかかわることについては、より厳格に手順を守らせるために細かな指示を出すことは許されます。一方、必要性が低いこと(手間のわりに重要でない作業、誰も守ってないルール)については、業務の忙しさ、人員体制をも踏まえて、わざわざやらせる必要があるのか、慎重に判断しましょう。他の業務を差し置いてまで、あるいは他の人員に負担をかけてまで、その従業員にやらせる必要があるのか考える必要があります。

2 指導内容の記録化

指導した内容については、指導録を作成し、些細なことであっても必ず記録に残しましょう。

(1)記録化する2つの目的

①証拠を残すというのが第一の目的です。第三者からも会社が指導を尽くしていたこと、誤った指導をしていないこと、本人に改善が見られなかったことが記録から判断することができます。

②本人の自覚を促すことが二つ目の目的です。本人の自覚を促すという意味では、指導録はなるべく本人にも見せるようにするのが望ましく、コピーを渡す等、いつでも閲覧できるような状態にしておきましょう。

(2)基本を意識

指導録は、日々の業務の進捗状況をチェックすると共に、何ができて、何ができていないのかを自覚させるためのものです。書く内容としては、日々の業務の流れ、チェック項目に沿って会社ごとに書きやすい項目を設けるようにします。指導録は日報という形で用意し、本人に記入させ、指導者に提出するようにします。業務で行えていなかった案件については、指導者が具体的な指示を書き加えて本人に渡し、改善を指導します。

(3)日常づかいを意識

指導録は日報の形で記載することをお勧めします。「指導の証拠を残す」という意識よりも「日常業務で使うもの」という共通認識を、指導者も部下も持って記載するのが望ましいです。

前述したように、指導録は、会社のために指導の証拠・従業員に改善がなかったことの証拠を残すものです。しかし、証拠を残すことを意識しすぎると、「会社はすべてやりつくしたので悪くない」とアピールしたくなる思いから、会社の指導内容が細かくなりすぎたり、従業員からの日報報告を揚げ足取りのように細かく求めすぎたりして、日報そのものがとん挫してしまったり、従業員が警戒したりすることになりかねません。あくまで日常での業務チェックを意識して記載するようにしましょう。

3 パワハラ対策

実際にはパワハラにあたらない場合でも、上司から強く指導されたことをパワハラだと被害を訴えるトラブルがあるのも事実です。パワハラだと言われてもうろたえないようにするには、正しい意識・方法での指導が必要になります。

(1)指導の目的を意識

最も重要なのは、仕事ができない部下の「できないポイント」を明確にし、それを改善させることに焦点を当てることです。この意識を明確に持たないと「辞めさせてやる」という意気込みが強くなり、感情的になったり、細かな事項を必要以上に責め立てたりする指導をしてしまいます。あくまで、業務上の必要があり、その目的に適った対応をしていることが必要です。

(2)2人体制

面談を実施する際は、必ず2人体制で臨みましょう。1人だけでは感情的になりやすくなってしまう恐れがあるのと、発言内容の証拠が残らないからです。指導録をやり取りしている指導担当者とは別の、事態を見聞きしている人物に同席してもらうのが望ましく、日頃指導に当たっている指導担当者の他に、さらに上の立場にある者、人事の権限がある人事部、指導担当者の上長、所長や社長が面談にあたるようにしてください。

面談の際は、より立場の上の者の口から指導をするようにしましょう。日頃、指導をしている担当者からだとついつい感情的になりがちなので、より冷静に、必要なことを端的に言える人から指導をした方が、部下の聞く態度も異なりますし、効果が見込まれます。

4 まとめ

辞めさせたい部下とトラブルを避けるために、会社は一貫して正しい対応をすることが求められます。目的は部下を辞めさせることではありますが、辞めさせようと指導をすると、糾弾するような対応になってしまい、結果誤った指導をとることになりかねません。先に記した項目と手順をしっかり守りながら、従業員が会社の求める水準に至っていない事実を客観的に示すことが重要になります。いかなる時も「感情を抑えて、冷静な態度で向き合う」姿勢を忘れずに対応しましょう。

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