パワハラの相談件数は年々増えています。それに伴い、パワハラを受けた結果精神障害を発症し、労災補償がなされたケースも大幅に増加しています。パワハラという言葉は、一般によく知られていると思います。ですが、自分のしたこと、されたこと、見聞きしたことがパワハラにあたるのか、判断するのは意外と難しいのではないでしょうか。今回は、パワハラの定義を確認しながら、事例をもとにパワハラ対策をご紹介します
1.パワハラの定義
被害者がパワハラだと思えば、パワハラだ。という認識はもう古いです。法律ではパワハラを次のように定義しています。
・職場における優越的な関係を背景とした言動で
・業務上、必要かつ相当な範囲を超えて
・労働者に精神的、身体的苦痛を与える、または就業環境が害されるもの
つまり、パワハラに当たるかは、その行為を客観的に見て判断されるのであり、決して被害者の感じ方一つで決まるわけではありません。パワハラの定義を理解していないと、従業員からパワハラ被害を訴えられた場合、正しく対応することができません。
パワハラ呼ばわりされることを恐れて、上司が指導をためらうという事態が見られることもありますが、指導する側、される側ともに、社内でパワハラの定義をきちんと認識し、適切な指導環境を醸成しましょう。
2. 事例で見るパワハラ6つのパターン
法律で、パワハラとは「職場における優越的な関係を背景とした言動で、業務上、必要かつ相当な範囲を超えて労働者に精神的、身体的苦痛を与える、または就業環境が害されるもの」を指すと確認できました。より具体的な場面を想定しやすいように、パワハラが起こる場面には6つのパターンが分類されています。
(1)身体的侵害
殴る、蹴る、突き飛ばすなど、暴力や傷害行為は典型的なパワハラと言えます。また、ケガをしていなくても、タバコの火を近づけたり、近くの物を蹴られたり投げつけられたりする、必要もないのに立ちっぱなしにさせるなどの行為も、このタイプのパワハラにあたります。
(2)精神的侵害
脅迫や侮辱、人格を否定するような暴言などです。執拗に叱責を繰り返す、人前でなじるなども、このパターンにあたります。「学生以下だ」「新人でもできる」といった発言は要注意です。
(3)人間関係からの切り離し
無視や隔離、仲間はずれなどです。席を隔離したり、仕事を与えない、一人だけイベントに呼ばない、わざとプロジェクトから外すなども、このパターンに当たります。
(4)過大な要求
明らかに達成不能なノルマや長時間労働しない限り達成できないようなノルマを与えることなどがこのパターンに当たります。新人にわざと難しい業務を与えたり、「明日までにやれ」といった無理な期限を設けるのもいけません。
(5)過小な要求
単純作業しか与えないなどもパワハラに当たります。技術職として採用したのに、電話番しかさせないなど、本人の能力や経歴からかけ離れた業務しか与えないのもこのパターンです。退職させたい者に対して、本人の能力に見合わない簡単な業務しか与えない、といった場面で見られます。
(6)個の侵害
過度にプライベートに立ち入ることも、パワハラに当たります。本人の出自を聞いたり、それを評価の基礎にするのは不適切といえるでしょう。有給を申請したのに対し、プライベートな理由を聞きだしたり、他の従業員に接触しないよう働きかける行為、就業時間後に執拗に連絡して対応を迫るなどもいけません。
3. 企業が取るべきパワハラ対策
パワハラの定義やパターンを確認したところで、このようなパワハラが起きてしまった時、企業はどのように対応すべきでしょうか。
(1)相談窓口の設置
労働者を雇用している事業主は、パワハラの相談窓口の設置が法律で義務付けられています(いわゆる、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法))。中小企業であっても設置義務がありますので、必ず相談窓口を設置し、社内で周知しましょう。
(2)調査
パワハラの被害相談が寄せられたり、社内で疑わしい事態を発見した時には、調査を実施します。調査に当たって、被害者、加害者、情報提供者のプライバシーには厳重に配慮しましょう。基本的に、誰がなんと言っているのかを他の人に口外してはいけません。
調査中に加害者や被害者を自宅待機にするかですが、加害者、被害者それぞれで対応が異なります。被害者側に対して自宅待機を命じなければいけない理由はないので、被害者から休みの希望を受けて、それを許可してあげるというかたちになります。医師の診断書がある場合には休職(無給になります)、有給使用の希望がある場合には有給休暇を、どれにも当てはまらない場合には欠勤(無給)となります。
一方、加害者を自宅待機とする場合、自宅待機命令という業務命令を出すことになります。自宅待機を命じられるのは、被害拡大防止や再発防止の必要がある時、出勤させた場合の証拠隠滅の防止の必要がある時、懲戒手続準備のために必要がある時などです。この場合、会社都合で出勤しないように命じている訳ですから、平均賃金の60%の補償が必要です。平均賃金とは、その労働者の直近3か月分の給与(各種手当てを含む)をその3か月の総暦日(カレンダーの日数)で割った金額のことです。
(3)対応
パワハラの調査をした結果、パワハラにあたると認定した場合、加害者には然るべき措置を講じなくてはなりません。
加害者と被害者を別の部署に異動させるのは最低限必要です。この時、被害者は現在の部署に残りたいのか、別に希望する部署があるのかを尊重しましょう。加害者に対しては、それに加えて、懲戒の措置も行います。戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒戒告といった選択肢があるなかで、どの懲戒処分をすべきかは、行われたパワハラ行為の悪質性に見合ったものを選択します。基本的に、常習性がなく、他に被害者がいないようなパワハラで、解雇をするのは行き過ぎです。
なお、パワハラが認定できなかった場合でも、被害者、加害者ともに、パワハラの当事者と名指しされた者同士が引き継ぎ一緒に勤務し続けるのは適当ではありません。どちらかが診断書を提出している場合や、少人数で接触度の濃い部署の場合など、異動を行わなかったことが、会社の安全配慮義務違反になる場合があります。
(4)企業の責任
会社はパワハラの相談窓口の設置義務があるだけでなく、パワハラを放置したり、適切に対処出来なかった場合には、使用者責任や安全配慮義務違反を問われ、金銭的な賠償責任を負います。パワハラは起こりうるものだと認識したうえで、適切に対処できるように備えましょう。
4.まとめ
企業にとってパワハラは大きなマイナスです。労働問題や訴訟のリスクはもちろん、職場環境の悪化、生産性の低下が生じる恐れもあるからです。一昔前までは職場で見られたような行為でも、今ではパワハラと言われます。企業は、働き方の常識は時代によって変化するものだと心得て、柔軟に対処する必要があるでしょう。