「新入社員を雇ったけれど、業務連絡や言葉使いなど一般常識といえるような対応すら満足にできない」「経験者であるから中途採用したのに、初歩的な業務すらできない」、このような会社が求める水準に達しない能力不足の社員を解雇することはできるのでしょうか?
1 解雇の種類
一言で解雇といっても、解雇にはいくつかの種類があります。種類を整理すると、どのような場合に解雇ができるのか、わかりやすくなります。ここでは、細かな説明は割愛して、解雇には、整理解雇・懲戒解雇・普通解雇があると考えてください。
整理解雇は、会社の業績不振を理由に社員をクビにすることをいいます。
懲戒解雇は、重大な会社規則違反をした社員を罰としてクビにすることです。
普通解雇は、勤務不良や病気など、勤務に適さない社員をクビにすることです。
2 能力不足の解雇
仕事の出来の悪い、能力不足の社員を解雇するのは、普通解雇にあたります。
どのような時に普通解雇できるのか、まず普通解雇の条件を確認しましょう。
(1)条件1〜解雇の客観的合理的理由
普通解雇をするためには、2つの条件が必要です。1つ目は、解雇に「客観的合理的理由」があることです。簡単にいうと、「誰から見ても辞めさせて当然」といえることです。
能力不足の場合に「誰から見ても辞めさせて当然」といえるかどうかは、この後詳しく解説します。
(2)条件2〜解雇の社会的相当性
普通解雇をするための条件2つ目は、解雇に「社会的相当性」があることです。これも、端的にいうなら、世間一般の常識に照らし合わせて「辞めさせる以外に方法がない」といえることです。
能力不足の場合に「辞めさせる以外に方法がない」といえるかの基準は、指導や教育を尽くしたかどうかにかかります。
3 能力不足の基準
あなたが困っている社員は、どうして能力不足なのですか? こう聞かれると、「言葉遣いが学生みたいで社会人としてそぐわない」「初歩的なミスが多く一人では何も任せられない」「段取りが悪くて人よりも仕事に時間がかかる」など、いくつか問題点を挙げられるでしょう。
では、いくつか挙がった問題点「それがあると、どうして、これ以上働かせられないほど能力が不足しているといえるのでしょうか? 説明してください」と改めて問われると説明するのが難しいのではないでしょうか。
それは、能力不足と判断する明確な基準を社内で設けていないからです。能力不足を理由に解雇するからには、感覚的な判断ではなく、基準が必要です。基準を設けずに解雇をしてしまうと、どうしても「解雇したい」という思いが先行して恣意的な判断をすることになります。その結果、解雇の条件である「客観的合理的理由」なしに解雇してしまうことになります。
能力不足を判断する基準は、人事評価の際に用いるようなかなり体系だったものを用意している会社もあれば、そこまで整備が進んでいない場合もあります。社員の能力を評価する仕組みを作っていない場合には、最低限、業務を内容ごとに種類を区切り、種類ごとにどのような能力が必要になるのか、どの程度の能力がないと「雇い続けられない」と判断することになるのかを整理する必要があります。
この「雇い続けられない」レベルとは、「他の社員と比べて一番下のレベルだから」というだけではいけません。「誰が判断したとしても、雇用を継続するべきではないと判断するレベル」でないといけないと思ってください。
4 解雇事由の限定
実際に能力不足で解雇する場合は、会社の就業規則の解雇事由にあてはまるかを判断して、解雇を実行することになります。就業規則に記されている解雇事由にあてはまらない場合には、解雇できません。つまり、解雇の条件である「客観的合理的理由」の有無にかかわります。
そして、就業規則に書かれている解雇事由は、記載されていれば、そのまま有効になるわけではありません。どういうことかというと、解雇事由が広すぎて、簡単に解雇できる場合にあてはまってしまうようなときには、解雇事由が限定して解釈されます。
具体例でいうと、就業規則に「労働能力が劣り、向上の見込みがない」場合には解雇できると書いてあったとしましょう。実際に裁判をしたところ、この解雇事由は「労働能力が平均的水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、向上の見込みがないとき」と読むべきものだと判断され、より場面を限定した解釈がされました。平均的水準に達していないだけでは解雇できないこと、労働能力不足が著しい場合でなければいけないことが付け加えられています。
あなたの会社の就業規則も、解雇事由が厳格に限定されているかどうか、チェックが必要です。そして、実際解雇する場合にも、その厳格な基準に当てはまらないといけません。
5 新入社員の解雇は要注意
能力不足で解雇する場合に、気をつけなければいけない社員がいます。それは新入社員です。学校を卒業して最初に就職した社員だけでなく、社会人経験はあるものの、他業種の経験しかないような第二新卒社員も含まれます。
このような社員を雇う場合、会社は即戦力になることを期待していないはずです。つまり、会社が時間をかけて育てることを想定して雇っています。そのため、入社して何年も経っていない時期に「期待していたよりも使えないな」と思ったとしても、解雇することはできません。つまり解雇の条件である「客観的合理的理由」も「社会的相当性」もどちらも満たしていないことになります。
余程重大なミスを犯したような場合は別ですが、最初の1年間は、いわば、育成期間といえるため、能力不足を理由に解雇はできないと思いましょう。会社が教育や指導を徹底すべきで、解雇などするのはもってのほか、と判断されてしまいます。会社の業務が幅広くて社員が習得しなければいけないことが多かったり、取り扱う業務が複雑で習得に時間がかかるような場合には、さらにこの育成期間は3年、5年と長くなっていきます。
日本の裁判では「使えないのなら、育てろ」と考えるのが一般的です。「使えなかったら、クビ」という価値観は、ひとまず忘れてください。
6 まとめ
解雇については、法律で厳しく規制されています。能力不足を理由に解雇する場合は、普通解雇の2つの条件である「客観的合理的理由」と「社会的相当性」を満たさなければいけません。
能力不足と判断する基準があいまいだったり、就業規則の解雇事由が厳しく限定されていなかったり、新入社員を解雇する場合には、「客観的合理的理由」の条件を満たさないので解雇ができないと思いましょう。