コラム

弁護士が教える問題社員の正しい辞めさせ方

仕事の出来が悪かったり、トラブルメーカーになったりする社員をすぐに解雇しようとしていませんか? 揉めずに社員を辞めさせたい場合、実は、解雇はあまり良い方法ではありません。では円滑に辞めさせるにはどうしたらいいのでしょうか? 問題社員の正しい辞めさせ方をご紹介します。

1 解雇は最後の手段に

問題社員を辞めさせたい時、「あなたを解雇する」「あなたはクビだ」と言うと、言われた社員側の感情を逆撫ですることは間違いありません。感情的な対立は問題を拡大し、法的な紛争を引き起こすことになります。

また、理論的にも解雇を早期に行うのはおすすめできません。なぜなら、解雇を成功させるハードル(解雇の有効要件)はとても高いからです。

解雇を成功させるためには(1)解雇に客観的合理的理由があること、(2)解雇に社会的相当性があることという2つの要件を満たさなければいけません。

(1)解雇の客観的合理的理由とは、就業規則の解雇事由にあてはまり、かつ、解雇するに値するだけの理由があると認められることです。(2)社会的相当性とは、解雇をする以外に他に方法はないと認められることです。これら2つの要件を満たすのは、非常に難しいことです。

問題社員に対応する時、解雇もあり得るという姿勢を見せ、その準備をしつつ、実際には解雇は最終手段として取っておくべきでしょう。

なお、これからご紹介する手順は、解雇の前段階としても役立ちますし、解雇をする時にも有効な証拠になります。

2 記録や証拠を作る

問題社員というのは問題行動があるから問題社員となるのです。その問題行動の証拠を集めることが、まず重要です。その後に指導を行う上でも、証拠があると説得力や反省を促す効力が高まります。また、懲戒や解雇を見据えた場合、証拠は必須になります。

証拠というと、素人では手出しができないような大掛かりなことをイメージするかもしれませんが、起こったトラブルをその都度、記録していくと考えれば、それほど難しいことではありません。

問題行動の記録や証拠となるのは、何も防犯カメラやスマートフォンでの録画や録音に限りません。問題行動が起こる都度、周りの社員からメールで報告させる他、問題社員本人に報告のメールをさせても構いません。取引先や顧客などに迷惑をかけた場合には、取引先や顧客からのクレーム内容を周りの社員が報告するのもいいでしょう。問題が社内だけではなく、社外にも波及したことは、是非とも記録に残すべきです。

また、繰り返しミスを犯したり、問題となる自覚がないまま問題行動を起こしたりする社員の場合は、いつ問題が発生するか予測がつきません。そのため、日常的に業務内容を日報につけさせ、記録することも有用です。

3 指導の実績を作る

いくら問題行動の記録や証拠が積み重なったとしても、それに対して会社が一度も指導していないとあっては、意味がありません。

問題社員に問題行動を指摘して、行動を正すように指導することは、問題社員に「まずいことをした」という自覚を持たせるということ以外にも大切な意味があります。それは、会社が問題行動を見過ごしていないという実積を作るという意味と、会社の指導にもかかわらず問題行動を重ねたという証拠を作るという2つの意味があるのです。

多くの判例では、指導の実績がなく、いきなり解雇にした場合、その解雇を無効にしています。会社が指導もせず問題行動を見過ごしてきたのにいきなり解雇にすることや、指導や軽めの懲戒処分によって反省や行動を改める機会を与えずに解雇にすることは、認められないということです。問題行動に対しては臆せず指導をし、指導をしても問題行動を繰り返す場合には、戒告・譴責・減給・出勤停止など、軽めの懲戒処分を行うようにしましょう。

4 業務命令違反を作る

指導をしても同じミスを繰り返す場合や、ミスや問題行動の内容が重大な場合には、「こういう行動はしない」もしくは「こういう場合にはこうしなければならない」という業務命令を出し、より強力なかたちで勤務態度に対する是正を行いましょう。社員は、会社から与えられた業務を行う存在ですから、会社は社員に対して業務の内容ややり方を命令する権限があります。社員に問題行動が見られる場合には、適正な勤務態度に改めさせるための業務命令を出すことができます。

業務命令を出す場合には、口頭ではなく、必ず書面で行いましょう。判例の中には、口頭での業務命令では、社員が義務付けの強さを十分に理解できず、単なる口頭指導と同じレベルでしか事態を把握していなかったという理由で、会社に不利に判断したものもあります。

そして、業務命令違反があった場合には、その違反の重さや頻度に見合う懲戒処分をしましょう。業務命令違反が認められても、見逃してあげてしまったり、逆に重過ぎる処分を行ってしまうと、会社側に不利になることもあるので注意が必要です。

5 話す機会を作る

これは、指導や業務命令を発する場面とも重なる部分がありますが、問題社員との間で、会社がその社員をどう評価しているか、その社員自身は今後働いていくうえで自身の働きぶりをどう捉えているのか、話し合いをする機会を作らなければいけません。

なぜなら、問題社員は、自身の問題を自覚していないからこそ、問題行動を重ねているからです。その自覚を持たせないまま、指導をしたり、懲戒処分をしたり、辞めて欲しいという話をしても、自分は冷遇されたと捉えて会社に反発するだけです。

必ず、問題社員と話す機会を作り、できれば何度でも話し合い、問題社員に「自分は会社では認められていない」「今のままの状況ではまずいのかもしれない」と自覚を持たせてから、「辞めるつもりはないか」と退職を促しましょう(退職勧奨)。

このようなステップを踏み、問題社員に改善を促そうと対処を続けてきたにもかかわらず、退職に応じない場合に初めて、解雇をするか検討します。この段階では、問題行動の記録や指導の実積が証拠として積み重なってきていますから、それらの証拠を吟味して、就業規則の懲戒解雇の事由に当てはまるか(客観的合理性があるか)、解雇以外の措置は全て試みて、それでも解雇以外の方法はないといえる状況か(社会的相当性があるか)を検討して、全て申し分なければ、解雇に踏み切りましょう。

6 まとめ

問題社員は周りの社員の士気低下にも繋がりますので、早く辞めさせたいというのが会社の本音でしょう。しかし、辞めさせるということにあっては、解雇に踏み切ると、ほぼ間違いなく、紛争を呼び、遠回りな道のりになります。解雇ありきで対処するのではなく、改善を促す対応が求められます。問題社員を辞めさせるには、じっくり対処する心構えで臨みましょう。



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