報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」は仕事を円滑に進めるために必要なビジネススキルで、会社勤めをする社会人の基本と考えられています。しかし中には、この報連相ができない社員もいます。こんな社員を辞めさせる方法はあるのでしょうか。
1 報連相と解雇
報連相ができないことで、社員を解雇することはできるのでしょうか。実際には、報連相ができないことを理由に解雇することは難しいといえます。なぜなら、解雇するには、解雇の客観的合理的理由(=誰から見ても辞めさせて当然と言える理由があること)、解雇の社会的相当性(=解雇以外の方法がないこと)が必要になるからです。
報連相ができないというだけでは、「誰から見ても辞めさせて当然」とはいえないので、解雇の客観的合理的理由があるとはいえませんし、会社がもっと報連相ができるように指導すればいいと言われてしまうので、解雇の社会的相当性があるとはいえないのです。
では、報連相ができないことが原因で、重大なミスや重大な損害につながった場合はどうでしょう。
この場合も、重大な事態になったという、結果責任の考え方で解雇することはできません。なぜなら、そのような重大な事態につながるようなミスなのであれば、会社はそのミスを未然に防止できるように、二重三重の対策をしておくべきだったとも言えるからです。報連相ができないという事案ではありませんが、寝坊をして生放送のラジオを2回欠席してしまったアナウンサーを解雇した事案がありました。この判例でも、会社が寝坊対策を講じなかったことなどにも触れつつ、解雇は重すぎるという理由で解雇を無効にしています(昭和52年1月31日最高裁判所判決)。
このように見ると、結果の重さだけでは解雇はできず、あくまで、報連相ができなかったというそのこと自体の重みを捉えることになるのですが、最初に解説したように、報連相ができないというそのことだけでは、なかなか解雇は難しいのです。
2 報連相ができない原因
報連相ができないことに対処しようとするとき、まずは会社が報連相のできない社員に対して適切な指導をしていたかどうかが見られます。
そこで、なぜその社員は報連相ができないのか、原因を考えることも必要です。
原因としては、報連相の重要性が分かっていない、コミュニケーションが苦手である、報連相の仕方がわかっていないという個人に起因することと、報連相しづらい雰囲気がある、報連相をしたことで不利益がある(叱責される、評価が下がる)、報連相すべき事柄と不要な事柄が社内で曖昧である、報連相すべき相手が曖昧である等組織に起因することが考えられます。
このように原因によって、会社が指導すべきことも変わってきます。本人の問題であって本人が解決すべきこともありますし、会社がシステムや人事を見直さなければならないこともあるでしょう。
大切なのは、原因を探求せずに、頭ごなしに叱らないことです。これでは、会社がやるべき指導を尽くしたとは言えなくなってしまいます。
3 会社の落ち度の解消
報連相ができない原因として、会社に落ち度がある場合には、その解消に努める必要が出てきます。
例えば、報連相しづらい雰囲気があったり、報連相をしたことで不利益がある(叱責される、評価が下がる)ことが原因である場合、上司に対する指導も求められます。併せて、必要な報告が円滑にできるよう、風通しの良い職場環境を整えることも重要です。「そのくらい自分で考えろ」「詰まらないことでいちいち報告するな」と叱責するようではいけません。ともすればパワハラが潜んでいるかもしれないという目線を持って臨む必要もあります。
また、報連相すべき事柄と不要な事柄が社内で明確になっておらず、報連相すべき相手が曖昧である場合には、会社でその辺りのルールを整備しましょう。ルールを作るだけでなく、根付かせるために、折に触れて研修などを行う努力も必要です。
4 指導と証拠
報連相ができない原因を解明し、解消に務めながら、問題の社員に対しては、必要に応じて個別の指導をしましょう。なぜなら、会社がきちんと指導を尽くしたということによって、それでもできないのなら社員の方に落ち度があるという裏付けになるからです。
そして、指導をしたことや、報連相がされなかったこと(怠ったのが誰か、原因、結果どうなったか)は、都度、指導録や報告書、顛末書など、なんらかのかたちで記録に残しましょう。法律の世界では、証拠のないことは、なかったことになってしまいます。このあとご紹介する、辞めさせる方法を実践するため、そして、問題の社員本人に事態を理解させるためにも、証拠は必要です。
5 辞めさせる方法
報連相ができない社員に対し、会社が繰り返し指導をし、会社側の落ち度になりそうな原因は解消しているという前提で、それでも報連相ができない社員を辞めさせるためには、どのような対処が必要になるのでしょう。
(1)懲戒
報連相ができない状態が改善しないのであれば、懲戒を実施することも検討しましょう。懲戒は、就業規則に定めがなければできませんので、就業規則がない場合や、就業規則があっても懲戒の規定に不足がある(あてはまりそうな懲戒事由がない)場合には、懲戒は実施できません。
どの程度の懲戒をすべきかですが、報連相をしないことそれ自体は、そこまで重く罰すことができません。一番軽い懲戒の種類(戒告の場合が多い)を選択することが多いでしょう。
報連相をしなかったことで、さらにトラブルが発生した時には、発生したトラブルの大きさ、他の防止策が機能していたかどうか、報連相をしなかった理由やごまかしの有無などを勘案して、一番軽い種類の懲戒よりも、さらに一、二段階重い懲戒をするかを検討しましょう。
(2)待遇の見直し
報連相ができないことが人事評価(やる気や責任感、実績、習熟度)に反映できる場合には、人事評価を落としたり、その結果、降格や減給をするかどうかを検討しましょう。
社内に確固たる人事評価制度がない場合には、それまでの昇格や昇給の仕組みを分析し、その条件に当てはまらないことを理由に昇格や昇給をさせず据え置いたり、賞与の支給基準を分析して賞与額を周囲と差をつける等の方法があります。
また、具体的に待遇(肩書や給与)を変更できなかったとしても、本人に対し、ある程度客観的な人事評価を示し、会社からの評価を知らせる機会を設けることは有効です。
(3)退職勧奨
「会社を辞めたらどうか」と退職を勧め、本人が応じれば合意退職とすることを退職勧奨といいます。退職勧奨は、強制的な方法で行わない限り違法になりませんので、退職させるうえで安全な方法です。
報連相ができない社員に退職勧奨する場合は、本人に報連相ができていないこと、それによって仕事に支障を来していること、会社が繰り返し指導しても、改善できていないこと、会社がその事態を問題視していること、これらを本人に十分理解させてから行うようにしましょう。退職を迫られる理由に心当たりのない状態で退職勧奨をされても、社員としては戸惑い、反発するだけです。
6 まとめ
報連相ができないというだけで解雇することは難しいということをまず前提としましょう。だからと言って、報連相ができない社員の問題を放置してはいけません。会社として必要な対応を取りつつ、社員に対し、報連相ができていないことで低く評価しているということを示し、自覚を促すようにしましょう。