コラム

病気の従業員を休業させるべきか?社長が知っておくべき対応方法

企業は従業員の健康を守るため、健康診断を受診させる義務があります。病気を理由に休職している従業員の内訳は、メンタルヘルス、がん、脳血管疾患が半数以上を占めており、これらの病気は決して起こり得ないものではありません。ある日突然、従業員が病気になった場合、会社はどう対応すべきか、対応方法についてご説明します。

1 病気が原因の解雇

病気を理由に従業員を解雇できるかは、ケースバイケースです。

病気によって労働能力に重大な影響を及ぼし、それがある程度の期間継続すると考えられるときは解雇できると考えられています。

反対に、労働不能の期間があったとしても、一時的なもので、治療によって回復が見込めるときは解雇できません。病気があり、労働能力が落ちたとしても、働けない、仕事に耐えられないというほどでないのであれば、解雇することはできないのです。

たとえば、厚生労働省の「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」では、「HIVに感染していることそれ自体によって、労働安全衛生法第68条の病者の就業禁止に該当することはないこと」と定めていることから、エイズ感染という深刻な病名であったとしても、それだけで当然に解雇ができるわけではなく、解雇が無効にされた判例があります。(東京地裁判決平成7年3月30日)

2 解雇の前に検討すべきこと

従業員が病気になり、労働不能に陥ったり労働能力が低下したりしても、企業がすぐには解雇できないのはなぜでしょうか?それは、一定期間の病気休業をあたえるべきだと考えられているからです。大抵の企業では、就業規則に休職や病気休業について決められています。万一就業規則に休職の定めがなくても、仕事をさせずに回復を待つ期間が必要になるため、すぐには解雇できません。

3 働き方への配慮

従業員が病気になった時、選択肢は解雇か休職かに限りません。病状に応じて柔軟な働き方を話し合っていく必要があるでしょう。病気の治療中は、薬の影響や回復中の体力の低下で労働能力が低下することがあります。そのような場合に、辞めさせるか無給で休ませるかという選択肢しか与えないのでは、従業員の不利益が大きすぎます。そこで、本人の意向を踏まえ、

時間単位の有給、短時間勤務制度、フレックス勤務制度(通院のために時間をずらす必要があるため)、時差出勤、リハビリ出勤制度、通勤上の配慮(自動車通勤を認めるなど)、在宅勤務制度、流動的な休憩を認める制度、休憩場所の設置、相談窓口の設置

なども選択肢に入れて、話し合いを進めるようにしましょう。

厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」でも、このような配慮案が公表されています。

4 病院に行かない従業員

明らかに体調を崩しているのに出勤してきてしまう従業員に対しては、病院への受診命令も業務命令として発することができます。なぜならば、企業には、従業員を安全に働かせる安全配慮義務、労働安全衛生法上の義務があるからです。ただし、就業規則上に受診命令を出せるような根拠となる定めが必要です。

一方で、病気というのはプライバシー性の高い内容なので、安易に受診命令を出すのではなく、まずは本人を説得することから始めてください。明らかに体調に不調があり、業務に支障を生じているのに受診を勧めても病院に行かない、そのような場合に受診命令を出すようにしましょう。(メンタルヘルスの場合にはより一層慎重な対応が必要と考えられています)

受診命令に従わないのは業務命令違反ではありますが、それで会社が損害を被っているわけではありません。ですから、受診命令に従わないことを理由に懲戒するというよりも、病気の証拠がない以上は本人を健常者として扱い、業務を行う上での能力や協調性を問題とすることも検討した方がいいでしょう。

また、本人が病気を隠す場合に限らず、病状が悪化した場合や再発した場合、障害が残る場合にも、慎重な配慮が必要です。本人の意見を聞き、医師の診断内容や聞き取りを通し、本人の身体に負担なく、かつ意向を尊重した就業方法に対応しましょう。もし、医師の意見等から、勤務を継続させることによって病状が著しく悪化する恐れがあると判断した時は、就業禁止をしなければいけません。

5 企業に求められる責任

企業には労働安全衛生法で労働者の健康を確保する対策が求められています。健康診断もその一つで、従業員に受診を勧めることも企業側の責任として行うべきだと考えられています。

心臓、腎臓、肺等の病気にかかり、勤務によって病状が著しく悪化する恐れがある場合には就業を禁止しなければなりません(労働安全衛生法68条)。一方で、就業の機会を失わせないように対応し、止むを得ない場合だけ、就業禁止にしなければならないと考えられています。

企業には、直ちに従業員の就業の機会を奪うのは拙速ですが、働かせる以上は病気が増悪しないように配慮が必要という、複雑なバランシングを求められているといえます。

厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では治療と仕事の両立を支援するために、次のようなステップを踏むことを勧めています。

・従業員から会社へ支援に必要な情報提供

・会社から産業医への情報提供と配慮する内容の意見を得ること

・主治医や産業医の意見を踏まえて就業継続の可否を判断

・働くうえでの配慮や治療への配慮を決定して実施

・休業する場合の制度やフォローアップづくり

6 まとめ

企業には従業員の病気や健康に配慮する義務があります。一方、従業員は病気を公表することで不利益を被るのではないかという気持ちから、病気のことを言い出せないケースや、職場の理解を得て、病気を公表しつつ働き続けたいという人もいて、要望は様々です。たとえ病気になっても、辞めさせる、休ませるという紋切り型の対応だけではなく、本人と話し合った上で柔軟に対応することが求められます。

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