コラム

法律にのっとった正しい固定残業代の計算方法

固定残業代は従業員にとっては毎月決まった収入が確保でき、会社にとっては残業代の計算がかんたんにできるものとして、重宝されていました。しかし、判例が出されたことにより、いまでは使うのに少し注意が必要です。

1.固定残業代とは

固定残業代とは、文字通り、毎月決まった金額の残業代を支払うものです。「基本給20万円、残業代5万円」とか「残業代30時間分 5万円」といったかたちで記載されていると、それが固定残業代です。

残業が少ない月でも固定残業代受け取れるため、収入が安定し、従業員としては嬉しい制度です。一方、残業がかなり多い職場なのに、きまった残業代しか払わない(この場合、残業した時間よりも払われた残業代の方が少なくなってしまう)といったことも見られるようになり、固定残業代で残業代の未払いは、ないのかということが問題となりました。

2.まちがった固定残業代のデメリット

そこで判例によって、未払い残業代をうまないための正しい固定残業代の支払い方が示されました。もしまちがった固定残業代の支払いをしていると、会社は次のようなデメリットを負うことになります。

・固定残業代として払っていた部分は、一切、残業代の支払いとならない。

・固定残業代として払っていた部分は、基本給と同じように、残業代の割増計算をする時の基礎になる。

誤った固定残業代の運用をしていると、固定残業代が残業代の支払いとは認められなくなるため、今まで1円も残業代を払っていないことになってしまいます。今まで残業させた分、一気に未払い残業代が生じることになってしまうのです。また、未払い残業代を計算する際、固定残業代部分は基本給と同じように、割増計算の基礎になってしまうため、算出される残業代が高額になります。基本給20万円の人の残業代よりも、基本給25万円の人の残業代の方が高くなりますよね。それと同じように、固定残業代部分によって基本給部分がかさ増しされてしまうので、残業代が高額になってしまうのです。

固定残業代を導入して数年が経っていると、その間の未払い残業代が百万円単位になることも珍しくありません。そして、固定残業代で問題なのは、このような高額の未払い残業代が生じる従業員が、同時に複数人発生するということです。訴訟を起こしたりして未払い残業代を請求してきた従業員は一人でも、同時期に働いていた他の従業員は、同じように未払い残業代を請求できる状況になっているのです。第二、第三の請求者を出さないような社内での対応も必要になります。

3 正しい固定残業代の3つの条件

判例は、正しい固定残業代の支払い方の3つの条件を示しました。

(1)基本給部分と残業代部分が明確に区分されていること

(2)残業の割増の対価として支払われていること

(3)固定残業代を超える残業をしたら、差額を支払っていること

ひとつひとつ見ていきましょう。

(1)明確区分性

固定残業代がきちんと残業代の支払いと認められるためには、基本給などと明確に区別して表記されていないといけません。給与支払いの前提となる雇用契約書や就業規則に表記しましょう。

「基本給・固定残業代 25万円」→✖️

基本給と固定残業代の合計金額を書いてしまうと、残業代としてはいくら払っているのかわからないので、いけません。

「残業代・深夜残業・休日出勤として5万円」→✖️

通常の残業代と深夜残業手当と休日出勤手当では、それぞれ、計算する時の割増率や時間帯がちがうので、分けて記載する必要があります。

「時間外労働30時間分 5万円」→〇

「残業10時間分 3万円、休日労働5時間分 3万円」→〇

固定残業代が何時間分の残業代なのかを記載しておくのが望ましいです。通常の残業代と深夜残業手当と休日出勤手当それぞれで固定残業代を設定するときは、種類ごとに分けて記載します。

また、一般的に、45時間分を超える固定残業代を設定してしまうと、月の残業時間の上限を超えてしまうため(労働基準法で決まっています)、「うちは法律の上限を超えた残業をさせますよ」と宣言しているようなかたちになってしまうので、避けるべきでしょう。

(2)対価性

その手当の支払いが、残業に対するものであるとはっきりわかる名称にしましょう。たとえば、営業職や激務とされる部署で、残業代が生じやすいために「営業手当」や「精勤手当」といった名目で固定の残業代を支払っている場合があります。しかしこれでは、残業代ではなく、やる気を与えるためにその部署に与えられた手当とも取れるので、残業代として支払っているとは認められない恐れがあります。

(3)差額支払

実際の残業時間に基づいて計算した残業代が固定残業代を上回った場合には、超過した分の差額を支給しなければなりません。この時、差額の支払いをすることを就業規則や雇用契約書で記載しているだけでなく、実際に支払いの実績がないと違法となります。支払いの実績を積むためには、「今月は思ったより残業代が多かったから」と時たま追加の手当を支払うといった程度ではなく、きちんと残業時間の記録をつけ、それに基づいて残業代を計算し、固定残業代との差額を支払う必要があります。欠勤や遅刻があると、日々の勤務時間は一律ではありません。固定残業代も日割計算すると、非常に計算が複雑になってしまい、給与計算担当者の残業を誘発してしまうという本末転倒な結果になりかねず、会社として、残業時間の管理や残業代計算の手間をほとんど省けないことがわかると思います。

ちなみに、1月の残業は固定残業代を下回っていたから、2月で固定残業代を超えた残業をしても、1月に多めに払った分を2月の残業代に充てる(先払いしていたことにする)というのは認められません。月を跨いでの精算や通年での帳尻合わせはできませんので、注意してください。

4 まとめ

固定残業代は、一時期はどんぶり勘定的な使われ方をしていて、労使ともに重宝されていました。ですが、現在ではどんぶり勘定での残業代の管理は認められなくなっています。以前と同じようにゆるやかな管理をしてしまっている場合は、従業員の誰かから未払い残業代の請求をされる前に、管理を見直しましょう。

また、固定残業代が常態化することで「〇時間までは残業しても大丈夫」とい発想になり、残業を減らして効率を上げるというモチベーションが働きにくくなってしまうデメリットもあります。

自社の労務管理に固定残業代が合っているのか、従業員の勤務状態を今一度把握し、適切な運営を行いましょう。

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