残業代の支払いの中に、固定残業代というものがあります。残業代を固定の金額で支払うことから、みなし残業代制とも呼ばれます。この制度は一見便利に思えますが、注意も必要です。
1.固定残業代とは
固定残業代、固定残業制とは、文字どおり、毎月決まった金額の残業代を支給するというものです。たとえその月の残業時間が少なくても、また時間外労働、休日労働、深夜労働の有無にかかわらず、一定時間分の時間外労働などについて決まった金額を支払う制度です。
給与明細の項目に「固定残業代」という名称がなくても、毎月一定の金額を残業代(8時間超えの長時間労働、深夜労働、休日労働への手当)として支払っている仕組みがあれば、それは、固定残業代を採用しているということになります。
固定残業代を採用するのには、メリットもあればデメリットもあります。
2.固定残業代のメリット
(1)募集条件が有利に見える
固定残業代を採用する場合、従業員の募集条件で「基本給20万円、固定残業代5万円」などと記載することになります。これを見ると、「毎月25万円ももらえるんだ!」と思うので、従業員を集めやすくなります。
それなら「基本給25万円」と書けば良いじゃないか、とも思いますが、「基本給25万円」とした場合には、残業をさせたら別に残業代を支払わないといけません。それに対して、「基本給20万円、固定残業代5万円」としておけば、残業代5万円分は支払っているので、残業をさせても、この5万円の中でカバーできているということになります。
(2)残業代の計算が楽?
固定残業代を採用していると、毎月決まった額の残業代を支払うので、残業代の計算がいらなくなるように思えます。ですが、これは、実は誤りなんです。
たとえば、設定している固定残業代よりも実際の残業が上回った場合、会社は超過した分の残業代を支払わなければいけません。結局は、残業時間をチェックして、残業代を計算する手間はかかってしまうということになります。残業代が1時間とか、2時間とか、明らかに固定残業代を下回るような場合には、残業代の計算は省略できます。それでも、労働時間の管理は会社の責任なので、出勤時間、退勤時間の記録をつけて管理しなければいけないことには変わりはなく、残業代の計算が楽になることはありません。
3.固定残業代のデメリット
(1)正しい運用は意外と面倒
通常、残業代は残業した分だけつくものです。それに対し、固定残業代は、決まった金額を支給するため、残業した分だけ支払われているのか、わかりにくくなるという問題があります。固定残業代をきちんと残業代の支払いと認めるためには、3つの条件があります。
・基本給と残業部分が明確に区別されていること
・残業代の支払いとして支給されていること
・定額を超える残業をしたら差額を支給すること
この3つの条件を守って給与の管理をするのは、意外と面倒なんです。要は、普通に残業代を支払う時と同じように残業時間が何時間になったのかを記録をつけ、定額の残業代、たとえば、固定残業代5万円としていたら、5万円分以上の残業が発生した場合は、その超えた部分も残業代として支払わなければいけません。つまり、想定されている時間内の残業には追加の残業代は発生しませんが、想定時間を超えた残業には追加の残業代が発生することになります。
「固定残業代5万円」とすれば、残業時間の管理も残業代の計算も一切しなくていい、ということにはならないので、意外と手間がかかります。
(2)運用を間違えると高額請求に
もし先の3つの条件を守らずに固定残業代を支払っていると、それは、残業代の支払いとは認められなくなってしまいます。1円も残業代を支払っていないのと同じになってしまうので、未払い残業代がものすごく積み重なっている状態になるのです。
怖いのは、それだけでなく、固定残業代だった部分も基本給扱いになることです。どういうことかと言うと、「基本給20万円、固定残業代5万円」だったはずなのに、「基本給25万円」と扱われるのです。基本給20万円の人と基本給25万円の人では、基本給25万円の人の方が残業代は高くなります。
つまり、今まで1円も残業代を払ってないことになる上、未払いの残業代を計算する時に基本給がベースアップされてしまい、高額な残業代が算出されてしまうのです。
4.まとめ
固定残業代というと、毎月決まった残業代を払いさえすればよく、残業時間の管理も残業代の計算もいらないと勘違いされがちです。残業代負担を減らせると考えて固定残業代の導入を検討する企業は少なくありませんが、効果測定を実施し、適切に運用できるか慎重に判断しましょう。