指示にしたがわない、他の社員や取引先とトラブルを起こす、そんな会社にとって厄介な社員を辞めさせたい。そんな時、できればトラブルにならずに、社員に辞めてもらいたいでしょう。どうすれば円満に、いらない社員を辞めさせることができるのか、そのポイントをご紹介します。
1.解雇の高いハードル
いらない社員を辞めさせたい、そう考えた時、まず思い付くのが解雇でしょう。ですが、正しい方法で解雇するのは、実はとてもハードルが高いのです。
正しい方法で解雇するためには次の2つの条件を満たさないといけません。法律の言葉なので、なじみのない言い回しだと思いますが、確認していきましょう。
(1)解雇に客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)
(2)解雇をすることが社会通念上相当であること(社会的相当性)
この2つの条件、噛み砕いて説明すると、こういう意味になります。
(1)客観的合理性=「誰から見ても、辞めさせて当然」といえるような理由があること
(2)解雇をすることが社会通念上相当であること(社会的相当性)
この中でも特に、(2)社会的相当性の条件をクリアするのが難しいのです。
なぜなら、会社としては十分に検討した末に解雇しても、裁判では、予想もしなかった角度から「解雇する前にまだやれることがあった」と判断されてしまうことがあるからです。
2.解雇によって会社が負うリスク
正しい方法で解雇するためには、「解雇する以外に方法はなかった」といえる(解雇の社会的相当性がある)ことが必要になります。ですが、この社会的相当性の条件をクリアするのはとても難しいです。
では、解雇の条件をクリアしてないのに解雇してしまった場合、どんなことが起こるでしょう。具体的には、次のようなことが起こってしまいます。
・解雇した問題社員が会社に戻ってくる。
・問題社員がおとがめなしで戻ってきて、他の社員の士気が低下する。
・解雇してから復職までの給与の支払いが必要になる。
なかでも、解雇してから復職までの給与を払わなければいけなくなることが、会社にとっては金銭的に大きな痛手になります。
解雇を言い渡したあとは、その社員は会社で働いていないはずですが、解雇をしたことが誤りであったときには、その間の給与も支払わなければいけなくなります。これは、法律のルールでそうなっているのです。
もしも、解雇してから1年経ってしまっていたら、働いてもいないのに、その社員の1年分の給与を払わないといけない、ということになってしまいます。
正しい方法で解雇をするのは難しい。そのうえ、間違った方法で解雇してしまうと、会社は多くのリスクを負うことになります。
辞めさせたい、と思う社員がいても、解雇してしまう前に、少し立ち止まりましょう。
3.円満に会社を辞めさせる方法〜自主退職〜
いらない社員を辞めさせたい、できれば円満に辞めさせたい。けれど解雇は難しい…。
そんな時に検討してほしいのが、自主退職です。
自主退職は、解雇とはちがって、一方的に辞めさせるのではなく、社員も納得して辞めていくので、社員とトラブルになるリスクが低くなります。
でも、こう思うのではないでしょうか。「ただでさえ面倒な社員なのに、納得して辞めるなんて、あり得るんだろうか?」
もちろん、ただ「辞めてくれないか」と言っても、社員が自主退職してくれるわけではありません。円満に自主退職してもらうためには、コツも必要です。
4.自主退職のポイント
(1)退職意思100%は不要
解雇をせず、自主退職してもらうには、社員が「辞めてもいい」と思わないといけません。ですが、そもそも辞めさせたくなるくらい、扱いづらい社員です。自ら辞めたいと思ってくれるのでしょうか。
ここでポイントなのは、社員に積極的に「辞めたい」と思わせる必要はないということです。
社員から進んで辞めたいとは言って来なくても、「この会社にいても評価されない」「自分のやり方は通用しない」「辞めた方がマシかもしれない」という気持ちにさせればいいのです。
社員が会社を辞める時、必ずしも辞めたいという気持ちが100%ではありません。社員が会社を辞める時、会社に残りたいという気持ちと、辞めてもいいという気持ちをはかりにかけて、迷いながらも最終的に辞める方を選択するのです。
社員が自主退職を決意する、そのために必要なのは、辞めろと迫ることではありません。
(2)NGな自主退職の方法
社員に自主退職を促すためには、自分の意思で退職することを選択してもらわなければいけません。そのためには、次の3つのNGを犯さないようにしてください。
NG1 真意ではない退職をさせる
NG2 執拗に退職を勧める(違法な退職勧奨)
NG3 退職の意思を書面に残さない
NG1 真意ではない退職をさせる
積極的に辞めたいと思わせる必要はありませんが、あくまで社員が自分で退職を決意しなければいけません。
無理に退職を迫ってはいけないので、「自主退職しないなら解雇する」「いつでも辞めさせられる」「君にやらせる仕事はない」なんて言って、圧力をかけたり、不利益をチラつかせて退職へ誘導してはいけません。
NG2 執拗に退職を勧める(違法な退職勧奨)
社員に対して退職するように働きかけることを退職勧奨といいます。退職勧奨自体はいけないことではまりませんが、執拗にしすぎると、違法な退職勧奨になってしまいます。
社員が退職をはっきりと拒否しているのに退職勧奨を続けたり、連日・長時間の退職勧奨をしたり、人前で退職を勧めて羞恥心を煽るような方法はいけません。
NG3 退職の意思を書面に残さない
社員が退職したいと言ってきたら、それを証拠にしなければいけません。退職の意思をきちんと書面に残さなかったために、後から「不当解雇された」と言って社員に訴えられる場合もあります。
社員が自分から退職したことを証拠に残すために、退職の合意書を作って、社員にサインさせるようにします。
5.まとめ
辞めさせたい社員がいても、解雇するのではなく、自主退職に導けるように目指しましょう。自主退職に導くためには、積極的に「辞めたい」と思わせる必要はありません。無理に辞めるように迫るのではなく、自主的に「辞めてもいい」と思わせること、そして、退職の合意書にサインしてもらうことが大切です。