コラム

社員の遅刻・早退にどう対処する?会社が押さえておくべき扱い方

遅刻や早退は、日々のちょっとした出来事なので、見過ごしがちです。しかし、遅刻や早退を頻繁に繰り返すような悪質な社員がいたらどうしたらいいのでしょう? 放置すれば、他の社員の士気にも影響を与えることになります。会社には普段のケースと悪質なケース、両方に備えた対応が求められます。

1 遅刻・早退とは

1 遅刻・早退とは

遅刻や早退とは、法律的にはどういう意味でしょうか。それは、一部の欠勤ということになります。ノーワーク・ノーペイの原則により、遅刻や早退もその分は給与から控除される対象になります。そのため、遅刻や早退は欠勤と肩を並べるものといえます。

遅刻や欠勤をすると、給与から控除されることになるだけではなく、度重なると懲戒の対象になる他、出勤日数のカウントにかかわるような場面での取り扱いにも注意が必要になります。

2 欠勤、無届欠勤、無断欠勤

遅刻や早退は一部の欠勤といえますので、ここではわかりやすく欠勤を例にとって説明します。遅刻や早退、欠勤の中にも、いくつかの種類があります。無意識に欠勤(遅刻・早退を含む)といっても、意識して考えてみると、種類によって取り扱い方に違いがあるのです。今回は単なる欠勤、無届欠勤、無断欠勤に分けて考えてみましょう。

・欠勤…あらかじめ会社に欠勤を届け出ているもの。病欠や一定期間の病気休業、育児介護休業・産前産後休業などの場合もある。

・無届欠勤…届出はなかったが、欠勤をした理由に納得できるもの

・無断欠勤…届出がなく、欠勤をした納得できる理由もないもの

このように分けて考えてみると、単なる欠勤をはじめ、すべての欠勤に共通していえるのは、給与の控除の対象になるということについてでしょう。就業規則に欠勤控除の規定があれば、働かなかった時間分は給与を払わなくてよいことになります。

次に、無届欠勤の場合、納得できる理由があるので、後から振り替えて有給休暇にすることを認めるかどうかという問題意識が出てきます。

一方、無断欠勤の場合は懲戒にするかどうかという意識がはたらくことになります。

3 会社の制度との関係

一言に欠勤(遅刻・早退を含む)といっても、会社のさまざまな決まりとの関係を意識する必要があります。

(1)給与

欠勤や遅刻・早退をした場合はノーワーク・ノーペイの原則により、就業規則に欠勤控除の定めがあれば、基本給の控除が認められます。注意しなければならないのは、欠勤した以上の金額を給与から控除してはいけないということです。特に、遅刻・欠勤は1分単位で計算し、控除する金額に端数が出た場合は、小数点以下は切り捨てるなど、細心の注意が必要です。

欠勤日数がある程度まとまってあるために(一定期間の病欠や育児介護休業・産前産後休業など)賞与を減らす際にも、満額支給しないのは構いませんが、単に欠勤日数がたまっているというだけで一切支給しないというのはいけません。その期間中の出勤率と同じだけ賞与を与えるべきでしょう。精勤手当などの勤務の実働に対する手当についても同じように出勤率に見合った金額を渡しましょう。欠勤によって賞与や手当を減額する場合には、そのことが就業規則や給与規程に書かれていないといけません。

(2)出勤日数

欠勤・遅刻・早退は出勤日数や有給休暇の日数とも関係します。

欠勤をした場合、その分は勤続年数から外すのか、有給休暇を付与する要件(8割以上の出勤率)をクリアするのかということに注意を払わなければいけません。これは、後で詳しく解説します。

また、一定の出勤実績があることを昇給や手当支給の条件にしてある場合にも出勤日数のカウントのしかたが関わってきます。就業規則や賃金規程、人事評価規程を見て、計算の仕方が明記されているのか、労災や病気などの止むを得ない欠勤の場合、育児介護休業や産前産後休業などの労働者の権利で欠勤した場合も欠勤としてカウントするのかどうか、きちんと確認しましょう。これらは会社によって、それぞれ取り決めが異なります。

(3)懲戒

欠勤や遅刻・早退が度重なる場合は懲戒の対象になります。

懲戒は社員を罰し、戒めるためのものですから、無断欠勤が度重なるなど、社員側に落ち度がある場合に限定されます。懲戒する場合には就業規則がなければいけないので、就業規則の有無と規定されている内容をよく確認しましょう。

4 有給休暇との関係

(1)有給休暇への振替

欠勤をした後から、有給休暇に振り替えてほしいという場合があります。これを許している会社も多いでしょう。欠勤を有給休暇へ振り替えることは、法律に決まりのある制度ではないので、認めるかどうかは会社の判断になります。遅刻や早退などの場合に「じゃあ有給使って半休にしておくよ」という扱いにするのはよくあることではないでしょうか。

ここで、注意が2つあります。

1つは、社員からの希望がないのに、会社が勝手に有給休暇に振り替えてはいけないということです。有給休暇をいつ使うのかは、社員の権利ですから、勝手なことはやめましょう。

もう1つは、取り扱いを統一するということです。欠勤を有給休暇に振り替るのは認めるのに、遅刻・早退は半日分の有給休暇への振り替えを承認しないというのは、統一した取り扱いとはいえません。普段まじめな社員の振り替えには応じるのに、素行の悪い社員の振替には応じないというのもダメです。そして、有給休暇への振り替えに応じるということは、欠勤や遅刻・早退はしていないということになるので、懲戒の対象にはなってきません。

(2)有給休暇の計算への影響

有給休暇は、入社6か月以上で、所定の出勤日の8割以上の出勤がある場合に付与されます。8割以上の出勤率がないと有給休暇はもらえないので、欠勤や遅刻・早退が多い場合に、出勤率を下回っていないか、計算する際には注意が必要です。

まず、労災での休業、育児介護休業、産前産後休業で欠勤している場合は、欠勤としてカウントしてはいけません。また有給休暇を付与する出勤率があるかどうかを計算する時には、出勤しているものとして日数にカウントしなければいけません。これらは労働者の権利として与えられている休業なので、権利を使ったことで不利益を受ける場面がないようにするためです。

同じように、有給休暇を使って休んだ日も、出勤日として扱わなければいけません。そのため、安易に欠勤を有給休暇に振り替えることを認めていると、欠勤が重なっても次のタイミングで新たに有給休暇を付与されることになってしまいます。

そして、遅刻や早退をした日を欠勤日として扱って、出勤率を下げられるか、ですが、これはできません。たとえ、半日の遅刻が2回あったとしても、欠勤1日と扱うこともできません。出勤率を計算する時の「出勤日」は、暦どおり、午前0時から午後12時までと考えられているので、この中で一部とはいえ、出勤している以上、遅刻や早退をした日は出勤日としてカウントしなければならないのです。

5 退職金との関係

勤続年数が退職金の金額に関わる場合があります。

そもそも、退職金制度を利用するかどうか、どういう計算で支給するかどうかは全て会社ごとにルールを定めているので、まずは自社の退職金規程を確認しましょう。

勤続年数によって退職金の金額が変動することにしていた場合、勤続年数から欠勤日を控除するかどうか、労災による休業や育児介護休業などの場合も欠勤日として扱うのかどうか、きちんと確認してください。規定されていないにもかかわらず、社員に不利に扱いをしてしまうようなことがあってはなりません。

6 統一した対応

欠勤や遅刻・早退を扱う場合、会社で統一した扱いが必要です。前はよしにしていたけれど特に理由もなく今はダメにした、あの人はいいけど別の人はダメというように扱い方がバラバラなのはいけません。

・欠勤する場合の事前の届出の徹底(届出がない場合には指導する)

・有給休暇への振り替えの可否

・欠勤や遅刻・早退によって減らす対象にする給与(賞与や手当)の種類や計算方法

これらの取り扱いには、就業規則にきちんとしたルールを定め、それを徹底するようにしましょう。

7 まとめ

遅刻や早退はちょっとしたことと思って見過ごしがちですが、やむを得ない理由もなく遅刻や早退を繰り返す社員を放置することは、社内秩序の乱れや業績にも関わる問題になりかねません。悪質な社員が現れることも想定して、日頃からきちんとした対処が必要です。

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