仕事ができない、さらに言えば辞めさせたい部下に対して、どのように対処したらいいでしょう? ただ指導を繰り返すだけでは言うことを聞かない社員に対しては、業務命令を活用する方法があります。
1 仕事ができない社員への基本の対処法
仕事ができない社員とはどんな人でしょうか。例えば、何度教えてもミスをする、自己流のやり方が正しいと思っている、顧客や取引先からもクレームを受ける。共通するのは「仕事ができないことに自覚がない」こと。こんな社員にどう対処すればいいでしょうか?
その基本は、きちんとした指導を繰り返して、会社が求めている水準に能力が達していないことを本人に認識させ、自己退職に向けたステップを重ねていくことです。詳しくは「辞めさせたい部下が自分で辞めたいと言ってくる指導方法」の記事をご参照下さい。
2 それでも言うことを聞かない社員
指導をしても反発が激しく、一切言うことを聞かない社員に対してや、指導を繰り返しているいとまがない場合、もっと踏み込んだ働きかけができないでしょうか? まずは、より踏み込んだ対応をすべきパターン、指導の繰り返しだけでは効果が不十分と思われるパターンを紹介します。
(1)反発する社員
上司を甘くみていて、言われたことにいちいち反発する社員がいます。彼らはどのように仕事をすべきか、という本来の視点をはなれて、上司自体を気に入らない、ようは元を正すと人間関係のこじれが原因のことがあります。
社内のいさかいは、どの会社でも起きることですが、注意していただきたいのは、これを単なる個人的な人間関係の問題だと思ってはいけないということです。たとえ相性の良し悪しがあったにせよ、上司の指示に従わないのは、会社の序列や会社の指示を軽視していいという考えの表れでもあるからです。
(2)自分の仕事じゃないと言う社員
最初に与えられた仕事やこれまで与えられていた仕事が、自分のするべき仕事のすべてだと思っている社員がいます。このような社員は新たな仕事を頼むと、それは自分の仕事じゃないのでやりません、と断ってきます。このような社員に新しい仕事を頼むときは、まず、雇用契約書を確認して、職務内容に限定があるかを確認してください。限定があれば、その職務内容の仕事しか行わせられません。ですが、多くの場合は、限定はなく「会社の指示する業務」などとされているはずです。
つまり、自分の仕事はここまで、という区切りはないということです。本人が主張しても、臆せずに仕事をさせるべきです。たとえ、新たな仕事を頼んだことでその社員の負担が増えたとしても、雇用契約書や会社の賃金規程にしたがった給料を支給していれば、問題はありません。ただし、わざと簡単な仕事をさせたり、逆に、時間内に終わらないことが明らかな量の仕事を与えたりするとパワハラになるので注意が必要です。
(3)失敗が許されない業務をする社員
その社員や周りの社員、もしくは顧客や取引先の生命や健康、公衆衛生に関わる業務は、失敗したら取り返しのつかない事態に陥るため、待ったなしといえます。悠長に指導を繰り返している場合ではない可能性が多々あります。この場合には、守らせるべきルールに沿って速やかに業務命令を出すべきです。
3 業務命令の活用
指導を繰り返しても効果がない場合やそのいとまがない場合に活用したいのが、業務命令です。業務命令とは、業務を遂行するために会社が社員に対して行う指示や命令のことをいいます。
社員は会社から与えられた仕事を行う立場ですから、やらせる仕事の種類や量や方法には、会社に広い裁量があります。つまり、社員は会社の言うことを聞くものといえます。会社は業務命令を出せて当然で、社員はそれを守るのが当たり前。そのため、業務命令を出して、従わない時に業務命令違反を取ることは、社員が会社のルールや秩序を無視した証拠になるのです。そして、このような証拠を突きつけられることが重なると、その社員は、自分が会社からノーを突きつけられていることを明確に自覚するようになります。
上記に示した例のような場合、ただ漫然と指導を繰り返すよりも、業務命令という形で発した方が、明確な意味合いがあるといえるでしょう。
4 業務命令を出せる範囲
業務命令は、会社の業務遂行のために発せられるもので、就労や残業、出張、配置転換から、健康診断の受診命令など、さまざまな範囲に及びます。業務命令は、労働契約で合意されている業務に関連するものであり、合理性が認められる限りは、社員はそれに従わなければなりません。
反対に、就業規則や契約書に明確に反するような業務命令は無効となります。例えば、社長宅の草むしりや家族の送迎など、業務に関係のない命令は違法、無効ですので社員は従う必要はありません。理不尽な業務命令は、社員に苦痛を与えるだけでなく、社会的信用を失うリスクも抱えることになるため、業務命令を出す際は、契約書を確認し、業務に限定があるか、業務に必要な範囲を逸脱していないかチェックする必要があります。
5 業務命令違反の効力
社員は業務命令に従う義務がありますから、正当な理由がないのに、業務命令を拒否すると、業務違反があることの明確な証拠になります。場合によっては、戒告、減給、出勤停止などの懲戒処分も免れません。
会社側から自分がやるべき業務を明確に示されていたこと、それに違反したことが本人にも自明になるだけでなく、自分のしていることが、社会的に許されないんだ、という心理的効果もあります。業務命令を出し、違反をした場合に個別の面談や懲戒処分を行う。このようなステップを経て、社員に「自分のやり方は会社では評価されない」「もう会社を辞めてもいい」という退職の意思を芽生えさせるようにするのです。本人に退職の意思が芽生えると、自主退職に導きやすくなります。
6 準備すること
業務命令を出し、自主退職へのステップを踏み出すためには、次の準備が必要です。
(1)雇用契約書の確認
雇用契約書に書かれた、就業場所、就業時間、業務内容、休日などを確認し、業務命令を出せる内容に限界がないか、確認しましょう。例えば、いくら仕事ができないからといって、営業職限定で雇った社員を事務職に異動させるのはいけません。
(2)就業規則の確認
業務命令の内容に限界がないかを確認するため、また、懲戒処分をする場合に備えるため、就業規則の内容を確認します。雇用契約書には書かれていないけれど、就業規則に詳細に働くうえでのルールが書かれていることがあるので、就業規則の確認も欠かせません。
(3)命令を出すべき理由の確認
その社員の言動の何が問題で、会社としてはどんなルールをどんな理由で守らせたいのか、きちんと整理しましょう。これは、業務命令の内容や会社の姿勢に一貫性を持たせるために、重要です。
(4)業務命令の書式
実際に業務命令を出すときには、形に残るように書面で出しましょう。いざ業務命令を出す段階で慌てないように、あらかじめ書式を用意しておきます。
(5)懲戒処分のステップの確認
業務命令違反があった際、場合によっては懲戒処分を行います。懲戒処分の手続は、就業規則に定めてある通りに行わなければいけませんので、きちんと確認しておきましょう。
7 まとめ
仕事をせず、指導を繰り返しても激しく反発し、指導の効果が見込めない社員に対しては、一歩踏み込んで業務命令を出すという対処法があります。業務命令は、就業規則や契約書に記されている内容であれば、社員は必ず従わなければなりません。業務命令に違反した場合は、更なる追加措置として懲戒処分を科すことができます。業務命令により、社員に自分のルール違反を自覚させ、これに反すれば、更に厳しい処分が下されると理解することにより、自ら自主退社の道を選ぶ方向につなげていきます。