コラム

事例から見るマタハラで法律違反にならないための仕組みのつくり方

パワハラ、セクハラに続き、近年、職場で問題となっているハラスメントがマタハラです。出産の前後という長期にわたる人員配置に影響することから、職場全体を通じて正しい理解が必要です。

1.マタハラとは

マタハラとは、マタニティハラスメント、つまり妊娠や出産、育児をきっかけに職場で不利益な取り扱いが行われることです。

従業員が妊娠や出産、育児に携わることになると、おのずと体調面への配慮が必要になります。このような労働力の低下に目をつけたり、産休育休制度等の支援制度を利用することに対して解雇、降格、減給をしたり、経歴に見合わないような雑務ばかりを行なわせるのは不利益的な取り扱いとしてマタハラになります。また、上司や同僚が「つわりで辛いなんて甘え」「子供の体調管理くらいちゃんとしろ」といった言動を行い、就業環境を悪化させるのもマタハラになります。

マタハラは、制度利用を妨げるタイプと状態への嫌がらせタイプの2つに大別できます。どちらもれっきとしたマタハラですので、こういったタイプに当てはまりそうな言動には十分に注意をしましょう。

マタハラの被害者は女性だけでなく、男性も含まれます。妻の妊娠や出産、そして育児にかかわる男性従業員に対しても、不利益な取り扱いは禁止されます。以前は子供が生れたのをきっかけに、奮起させるために転勤を命じるなんてこともありましたが、本当にその従業員を転勤させる必要があるのかきちんと精査しないと、男性に対するマタハラになりかねません。

2.法律で守られている権利

マタハラは、男女雇用機会均等法や育児介護休業法によって禁止されています。そして、これらの法律によって妊娠・出産・育児に関して労働者に様々な権利が与えられています。法律が与えている権利ですから、労働者からの請求を拒んだり、諦めさせるような態度を取ってはいけません。2022年4月からは改正育児介護休業法が順次施行され、育児休業を取得しやすい環境の整備や、妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知、意向確認措置が義務づけられ、「マタハラ防止対策」について更なる強化が求められています。では法律上、どのような権利が与えられているのか、確認しましょう。

(1)産前産後休業・育児休業

産前休業(産前6週間。女性のみ。労働基準法)

産後休業(産後8週間。女性のみ。労働基準法)、産後の就労禁止(産後8週間、女性のみ。労働基準法)

育児休業(子が1歳になるまで、希望する日数。男女ともに。育児介護休業法)、

産後パパ育休(出生後8週間以内に4週間まで。男性が対象。育児介護休業法)

育児時間の取得(就業時間中30分を1日2回まで。正規非正規問わず。女性のみ。労働基準法)

(2)業務軽減

軽易な業務への転換の請求(労働基準法。女性のみ。違反の罰則あり。)

(3)子の看護休暇

小学校入学前の子の看護のために年間5日、子が2人以上の場合は年間10日の休暇を取得できる(育児介護休業法)。男女問わず。時季変更不可。無給か有給かは会社の自由。

(4)残業等の制限

育児のために残業の免除(子が3歳未満の場合)や残業の制限(1か月24時間以内。子が小学校入学前まで)、所定の勤務時間の短縮(時短勤務。子が3歳未満の場合)を求められる(育児介護休業法)。いずれも男女問わず。現在、3歳未満の子を対象としている制度も、小学校入学前までに変更することを国が検討中。

3.それはアウト! マタハラの判断基準

(1)不利益的な取り扱い

妊娠や出産、育児をきっかけに職場で不利益な取り扱いをしてはいけません。不利益的な取り扱いとは、次のようなことです。

解雇、契約更新の拒絶、正社員から非正規雇用への変更、降格、就業環境を害すること、不利益な自宅待機命令、減給、賞与での不利益な算定、昇給昇進における不利益な評価、不利益な配置変更、派遣労働者に対する労働の拒否。

(2)マタハラ判断基準

マタハラは、妊娠や出産、育児をきっかけに職場で不利益な取り扱いをすることです。その判断基準はつぎのようになります。

第1段階…妊娠、出産、育児休業取得等(これらに伴う支援の利用等を含みます。)が終了してから1年以内に不利益的な取り扱いがされている→マタハラ認定

第2段階(1年以内じゃない場合でも)…妊娠、出産、育児休業取得等と不利益的な取り扱いの間に因果関係がある→マタハラ認定

第1段階で、まず時期に着目してマタハラか判断されます。1年の期間内に不利益な取り扱いがされていたら、即、マタハラと認定されるので、会社にとってはシビアな基準といえます。

(3)マタハラの責任

マタハラは、労働基準法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法などの法令違反になります。これらの法令に違反した場合、是正勧告、企業名の公表、罰金などの罰則の対象になります。

また、マタハラによって解雇や減給をした場合、精神的苦痛を与えた場合などに会社は被害者である従業員から損害賠償をされますし、加害者となった従業員は懲戒の対象になります。

(4)会社の措置義務

男女雇用機会均等法や育児介護休業法により、会社には、マタハラ防止措置が義務付けられました。厚生労働省は、具体的な措置内容を公表しているので、それに対応しなければいけません。会社に求められる措置は、次のようなものがあります。

・方針の明確化と周知、啓発

マタハラの内容やマタハラが許されないこと、利用できる支援制度、マタハラが行われた場合の処分について、明確な方針を定めて、全労働者に周知・啓発する必要があります。

就業規則へマタハラの禁止や処分を明記することはもちろん、社内報などを通して、労働者全員が事業主の方針を目にすることが推奨されています。被害を生まないための研修や妊娠や育児に関して利用できる制度の啓発なども有効です。

・相談や苦情への体制の整備

あらかじめ相談窓口を設けて周知すること、相談担当者の教育や、マタハラに該当するか微妙な場合でも広く相談に対応することが求められています。相談窓口では、相談を受けておしまいにするのではなく、人事部門と連携を図る必要があります。その他のハラスメント(パワハラ等)と一元的に対応することが望ましいとされています。

・迅速適切な対応

マタハラが生じた場合に、迅速に事実確認をしなければなりません。被害者と加害者の双方から事実確認をしましょう。事実が確認できた場合の被害者への配慮、加害者への措置、再発防止に向けた措置を速やかに講じることが求められます。

・マタハラの原因の解消

マタハラの原因ごとに解決措置が必要です。妊娠から育児に対する従業員の理解が不足しているのであれば、研修が必要でしょうし、他の従業員への業務負荷が過大になってしまっている場合には、一時的に非正規雇用の従業員を補充するなどの措置が必要でしょう。

・プライバシー保護の措置

・相談や事実関係の確認に応じたことで不利益に扱わないための措置

4.男性へも広がる保護

(1)男性の権利

マタハラは女性だけを被害者とするものではありません。マタハラを禁止する様々な法令では、男性も保護の対象としています。子供が生れ、育児に関わろうとする男性従業員に対して、法律上の権利の行使や支援制度の利用を拒否したりするのは、マタハラに該当します。

(2)男性の育休取得率の公表

2023年4月から従業員が1000人を超える企業では、男性従業員の育休取得率の公表が必要になりました。世間一般に男性の育休を広めることが目的ですが、こういった動きは徐々に中小企業にも拡大するでしょう。

5.まとめ

中小企業では、従業員の出産・子育てが生じた際に、これまでに働きながら妊娠から育児をした従業員の前例がなかったり、余剰人員がいないことも起こり得ます。ですが、「うちでは前例がないから」「代わりの人がいないから」といって、業務軽減や休業を断ってしまうと、マタハラとなり、法的な責任を負うだけでなく、社会的な信用を大きく失うことになります。日頃から、人員体制などの備えを行うとともに、マタハラを許さない社内風土をつくるために、周知・啓発が必要です

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