近年では職場でのハラスメント意識が高まる一方、正しい知識を持っていないと、誰でも加害者となり、被害者となりうる状況です。ハラスメント対策を理解し、冷静な対処を実践しましょう。
1 企業に求められるハラスメント対策
1980年代後半からセクシャルハラスメントという言葉が飛び交うようになり、近年では様々なハラスメントが生まれて社会問題となっています。
これは、社員の意識の高まりにもつながっているでしょう。
社会的な流れを受け、いわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)によって、中小企業にもパワハラ相談窓口の設置が義務付けられるなど、企業に対する法的な責任も高まってきています。
2 ハラスメントが及ぼす影響
(1)人材確保
ハラスメントが起こる職場は、雰囲気や労働環境など、働く現場全体にかかわる問題が生じている状況です。特定の人に対するいじめがある職場や、上司が理不尽な職場を想像してみると、職場全体に居心地の悪さがあるのが想像できるでしょう。そのような状況では、ハラスメント被害に遭った人だけでなく、嫌気を感じた他の社員まで辞めていってしまいます。
人材を採用する場面を思い起こしてみると、人を募集するのにも時間やお金、労力がかかるのがわかります。そこから仕事を教えて育てるには、更にです。そのようなコストをかけたのに、人材が辞めていってしまっては、これまでの時間や労力まで無駄になってしまいます。また人を募集して、また辞められてを繰り返していては、コストがかかり続け、経営を圧迫しかねません。
(2)業務効率
ハラスメント被害が明るみに出ると、被害を訴える社員は休みがちになったり、正式に休職に入ったりします。また、加害者とされる社員にも聞き取り調査を行うほか、場合によっては自宅待機などによって職務を離れさせなければいけなくなりますので、その部署で通常どおり業務を回すことは難しくなります。
さらには、より広い視野で見ると、ハラスメントがはびこることによって社員の退職と採用を繰り返していると、仕事を任せられる人が育ちにくく、業務効率も向上していきません。
このように、ハラスメントは発覚した時だけでなく、平時であっても、企業の業務効率に悪い影響を及ぼすのです。
(3)会社の責任〜使用者責任・安全配慮義務〜
ハラスメントは、もはや加害者と被害者の個人間の問題ではありません。もちろん、根底には加害者と被害者の二者間の問題なのですが、それだけではなく、会社も責任を問われ、被害者社員から損害賠償を請求されるということです。加害者社員個人よりも、会社の方がお金がありますから、会社を訴えようというのも当然の話です。
さて、会社がハラスメント防止策をしていなかたり、ハラスメントがあることに薄々気づきつつ、適切な対策をしていないと、使用者責任や、安全配慮義務違反という責任を問われます。直接の加害者はハラスメントをした社員本人ですが、会社も同額の損害賠償を請求されてしまいます。
3 ハラスメント対策3つのポイント
(1)指針の作成と啓発
ハラスメント対策を進めるには、トップダウンで実行せざるを得ません。現場では様々な問題意識を感じていたとしても、それを集約して対応指針をつくりあげるのは困難です。トップが専門部署や担当者を立ち上げるなど、動き出さないといけません。
そして、何から始めるかというと、ハラスメントに対する指針を作成し、周知のための研修を開くなど、ハラスメントは許さないというメッセージを明確に発信することです。この時、一から自社独自の対応指針を作らなければいけないのではなく、他の企業や業界団体、厚生労働省が公表している各種の指針を参考にすればいいでしょう。
このハラスメント対応の指針は、ハラスメント全般に関するもので、やや抽象的な内容になります。個別のパターンでどのように対応すべきかは、定期的な研修会の実施が必要でしょう。よく、対応指針だけはあるが、あまり周知されておらず、作成以降はろくに研修も実施していない会社があります。啓発活動が不十分であったとしても、それ自体で金銭的な責任を問われることはありませんが、このような状態では結局、社員の間にハラスメント防止の意識が根付かず、ハラスメント問題を生んでしまいます。
(2)相談窓口の設置
いわゆるパワハラ防止法によって、中小企業であっても、パワハラの相談窓口の設置が義務づけられました。この相談窓口は、被害の早期把握、適切な調査、情報管理を目的とするものですので、社内の人員を相談窓口の担当者に任命する場合、その意識を徹底させないといけません。被害者や加害者が誰であるのかを不用意に口外するようなことがあってはならないですし、どちらかに肩入れした対応を取らないことも重要です。
また、相談窓口は被害者の味方になるためのものではありません。ハラスメントに適切に対処し、社内のコンプライアンスを保つことが役割です。そのことは相談に来る側にも、明確にしておきましょう。
(3)相談への適切な対応
ハラスメント被害の相談を受けたり、その懸念を抱いたりした時、適切な対応をしなければ、火種は大きくなってしまいます。
ハラスメントに関することですから、個人情報やプライバシーが守られるのはもちろんです。
ポイントなるのは、事実の確認を徹底的に意識することです。当事者は、何が起こったかを話す時、それまでの人間関係や感情など、背景的なことを踏まえて事実とごちゃ混ぜに話しがちです。これでは、被害者からの聞き取りと加害者からの聞き取りが違う内容になった時、どちらの言い分が本当なのか、判断がつきません。まず、事実として何があったのかを徹底して聞き取り、それに対してどう思ったのか、どうしてそうなったのか、という内心の話や背景の話とは、切り分けた聞き方にしましょう。
そして、聞き手は、まず、事実の聞き取りに徹してください。おかしいと思うことや、そんなはずはないという思いがあっても、まずはそういった評価を相手に話すのは差し控えましょう。セクハラ相談をした女性社員に対して、社長が「私の目から見ると、加害者はあなたと仲良くしたいだけで、セクハラしているようには見えないけど」と話したことがあります。これでは、女性社員は、自分の言い分を否定されて、まともに取り合ってもらえなかった、という思いを強めてしまいます。
どうしても鵜呑みにできないような事がある場合は「その話を前提とすると、客観的にはこうとも受け取れるけど、そう思わなかった理由を聞かせてください」など、あくまで相手の言いたいことを正確に把握するため、というスタンスで指摘してください。
4 まとめ
ハラスメントを防止するためには、一時的ではなく継続的な取り組みが重要です。 ハラスメントは社員間のトラブルですから、いざ勃発したときに、会社がどう振る舞うべきか、どちらの言い分が正しいのか、振り回される場面も見受けられます。ハラスメント防止のための研修を定期的に設けたり、トップメッセージとしてハラスメントについて発信したりするなどの啓発も効果的でしょう。継続的に取り組むことで、企業の風土そのものを変え、ハラスメント対策を定着させていくことが大切です。