問題社員は、会社にとって非常に厄介な存在です。一日も早く辞めさせたいと思っても、一度雇ってしまった以上、そう簡単に辞めさせることができるわけではありません。今回は会社を困らせる社員を辞めさせる最短の方法をご紹介します。
1 解雇が最短ではない理由
辞めさせる、というと、「クビだ」と言って解雇することを思い浮かべるでしょう。ですが、解雇は、社員との紛争を生じさせ事態を複雑にするので、実は最短の方法とは言えないのです。まず、どうして解雇が難しいのかを解説します。
(1)解雇の条件
解雇の条件は、労働契約法16条に定められています。 ちょっと難しい言い方が出てきますが、大切な点ですから、知っておいてください。
・ 解雇に客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)
・ 解雇をすることが社会通念上相当であること(社会的相当性)
解雇は、この2つの条件を両方満たさないと、有効になりません。客観的合理性とは、解雇するに値する理由があることです。そして、社会的相当性とは、解雇する以外の方法がないことです。この2つの条件を満たすことはとても難しいのです。
(2)解雇の事例
解雇の条件を2つともクリアする難しさを具体的に想像できるように、実際の事例をご紹介します。
【解雇に成功した事例】
A社では、ある社員が、納期に間に合わない仕事があるにも関らず、上司に報告や引継ぎをせずに定時で帰宅したり、会社内で会話を録音したりといった問題行動を繰り返していました。会社がその社員を指導しようと、独自のワークシートを用意して提出させても、仕事と全く関係のない内容を書いたり、自分の意見に固執したことばかりを書いていました。
この事例では、会社の指示を受け入れないこの社員の姿勢に改善が見込めないと判断され、解雇が有効と判断されました。(東京地裁立川支部平成30年3月28日判決)
【解雇に失敗した事例】
ある社員が同僚の女性社員を大声で叱り、さらにその社員は、上司の部屋に逃げた女性社員を追いかけ、上司の部屋でも暴言を吐き続けました。B社はこの社員を解雇しましたが、解雇は無効と判断されてしまったのです。(東京地方裁判所平成31年2月13日判決)
さて、A社の事例とB社の事例、何が決め手で解雇に成功したり失敗したりしたのか、わかるでしょうか。解雇の事例は千差万別で、これといった決め手を判断しにくいのです。
さらに言えば、B社の事例ではこんな事情もありました。B社の事例では、叱られたり、暴言を受けた女性社員にも、以前から勤務態度に問題があり、解雇された社員と不仲だったのです。解雇の原因となった、女性社員を叱ったり、暴言を吐いた行為には、事情があったのです。そのため、解雇された社員の粗暴な言動には問題があるものの、会社としては、指導や警告をして経過を観察すべきであったと判断されました。
このように、解雇を検討されている社員にとって、有利な事情はないか、汲むべき事情がないかを丁寧に検討しないと、特に社会的相当性(解雇以外の方法がないか)が認められることは難しいのです。
2 問題社員の共通点
会社にとっていらない問題社員といっても、様々なタイプの人間がいます。しかし、共通するポイントがあり、それは、自分が会社から評価されていない、良く思われていないという自覚が足りないことです。多少は居心地の悪さを感じていたとしても、それでも自分のやり方でまかり通ると思っています。そんな状態で辞めるかどうかという話をしても、反発され、揉め事になるだけです。
まずは、自分が会社から評価されていない、このまま会社にいられないかもしれないという意識を持たせないことには、辞めさせるまで最短の道は得られません。
3 会社が持つ武器
会社は、問題社員の対応に苦慮しているでしょうが、どの会社にも共通する武器があります。それは、会社の規律を作るのは会社だということです。社員は会社に与えられた仕事、会社に与えられたルールの上で働くのが大前提です。ですから、会社が正しくルールを守り、問題社員に正しいルールを示しさえすれば、会社が足元をすくわれることはないのです。
もちろん、会社のルール自体が正しくない、法律に違反しているということはあってはいけませんから、会社の内規、特に就業規則の内容に不備はないかを確認する必要があります。そして、それらのルールはきちんと書面化されているか、社員に対して明示されている、ルールとして形骸化していないかも大切な要素になりますので、それらを踏まえた上で、実践するようにしましょう。
4 指導による自覚
問題社員に自覚を持たせることが、辞めさせるための最短の道になります。では、そのためにはどうすればいいでしょう。
(1)日々の指導
まず、日々の業務を通じて、できない点、不足のある点、トラブルを起こしたことなどは逐一、指導をしなければいけません。指導についても、口頭の指導だけでは何の証拠にもなりませんし、本人に自覚を持たせるためにも、指導録や業務日報、始末書など、書面化しましょう。本人に書かせたり、本人に渡して見せるプロセスが有効です。指導を通じて本人に改善や反省、自覚を促します。
(2)人事評価面談
日々の指導をある程度繰り返したところで、会社がその社員をどう評価しているかフィードバックする機会、人事評価面談を実施しましょう。人事評価といっても、社内に確固たる人事評価基準がなくても構いません。日々の指導のうえでも改善がないのであれば、会社がそれを問題視している、社員として評価で劣ることを伝えましょう。
この人事評価面談は、自分が会社では評価されていない、通用しないと自覚させるためのものですから、なにもこの面談で追い詰めることは目的としていません。むしろ、この面談ですぐに辞めるようプレッシャーをかける言動をしてしまうと、社員も会社を敵対視するようになってしまいます。
(3)退職勧奨と金銭保障
では、いつ辞めるのか話をするかというと、日々の指導、人事評価面談を通じて、問題社員に会社でこのままではやっていけないかもしれないという自覚が生れてからです。これは、見極めが難しいですが、強気な発言が消えたり、弱気な発言が見えるようになったり、「辞めてもいいかもしれない」と言うようになったりしたら、それがシグナルです。
このようなタイミングで「うちでは君は合わないようだから、辞めたらどうか」という話を持ち出します。辞めるように促すことを、退職勧奨といいます。
この時に、問題社員の能力全般を否定するような言動や、人格を否定するような言動は絶対にしないようにしましょう。このような言動は、問題社員の心情を退職するのとは真逆の方向に固執させていまします。それだけではなく、パワハラとして会社が損害賠償責任を負う状況になったり、退職勧奨が違法なものになってしまいます。
そして、最後の一押しとして、金銭保障を用意しておくのも重要です。問題社員が「辞めようか」という気持ちになっている時、迷うのは当面の生活資金のことです。次の就職が決まるまでの期間(多くは3か月程度)の金銭を支払う用意をしましょう。この時も、お金を払えば辞めさせられるというようなニュアンスで金銭保障の話を持ち出すのはやめましょう。
このようなステップで、問題社員を退職に応じさせるのが、最短の方法になります。
5 予備的なルートの準備
問題社員自ら辞めるように働きかけても、思うように応じない場合もあります。そのような場合に備えて、別のルートも想定しないといけません。
(1)証拠収集
1つは、問題行動の証拠をきちんと残しておくことです。証拠を残すと、指導や人事評価面談の際に本人に自覚を持たせるために示すこともできますし、この後触れる懲戒や解雇をするうえでも、会社に有利になります。
(2)懲戒
指導をしても問題行動に改善が見られない場合や、大きな問題を起こした場合には、懲戒処分を行いましょう。懲戒処分を行うためには、就業規則が必須です。就業規則の規定に則り、懲戒を実施します。
懲戒は、罰する行為であると同時に、戒める行為です。懲戒によって戒めを与え、改善の機会を与えないと、いざ、解雇する時に、会社に不利になるため、きちんと懲戒処分を行いましょう。
(3)最終手段解雇
指導や人事評価面談、懲戒でも効果を得ない場合、最終手段として解雇することも視野にいれなければいけません。解雇を成功させるためにも、問題行動の証拠、それまで指導を行った証拠、それまでの道筋で懲戒を実施した証拠を揃えましょう。そのうえで、解雇の条件に当てはまるか慎重し判断し、解雇をします。
6 まとめ
会社にとっていらない社員を解雇しようとするとき、苛立ちや焦りから拙速に行動するのはいけません。かと言って、何も措置をとらないままになるのもいけません。
問題行動に対し、正しく指導し、会社が不利にならないよう、適切な手段を踏み、着実に進めることが、最短の方法といえます。