事例1:不正を訴えて突如欠勤した社員を自主退職へ
ある日突然会社の不正を訴え、出勤を拒否した従業員が現れたら?
不正を吹聴されれば会社の信用は失墜するので、経営者としては、すぐにでも辞めさせたいと考えるでしょう。しかし、いきなり解雇しては、不当解雇だと訴えを起こされ、問題は更にエスカレーションする恐れがあります。
今回は、弁護士が対応したことで、不正を訴えた社員を自主退職に導いた事例をご紹介します。
会社の得られるメリット
・退職させるための費用が0円
・不正呼ばわりする社員に社長が対応するストレスを軽減
会社の概要
業界大手企業の発注する現場に入る中堅の工事会社で、正社員20名。
社長は創業社長で自身も現場経験を持つ、真面目で明るい人柄。
普段からラインでやり取りするなど、社長と社員のコミュニケーションは良好。
事案の概要
【弁護士に相談するまでの経緯】
とある工事会社で、従業員が突然「この現場には不正がある」「不正な仕事には関わりたくない」と訴えて、出勤を拒否しました。
社長は従業員が騒ぎ出したその日に、直接従業員と連絡を取り、「不正があるなんて、なんのことだ」と確認。社長が説明しても、従業員はそれを聞き入れず「そうじゃない、それじゃ間違っているんだ」と否定。「会社には不正がある」の一点張りで社長と押し問答になり、埒があかないので、弁護士のもとへ相談に。
【社長は即時解雇を望むが】
社長は不正呼ばわりされたことに怒り心頭。すぐにその従業員を辞めさせたいと希望しました。
一方で、本当に不正があったのなら、不正な業務は指示できないのは当然のこと。不正の有無を確認するため、正しいルールはなんなのか、会社は当日の現場で何をやっていたのかを確認することにしました。ところが、正しいルールがはっきりしません。法律や業界のマニュアルを文字通りに確認すると、会社のやり方ではルール違反しているようにも見えます。しかし、社長の説明では、現場や業界では「こうするもの」というルールがあるらしく、その業界ルールが一般化しているということでした。このように、会社にルール違反がないのかどうかはっきりしない状況だったため、会社としては「不正なんかない、吹聴はやめろ、普段通り業務に就け」とは命令しづらい状況にありました。仮に不正がなくても、そういう従業員を業務に従事させると「うちの会社は不正をしている」と吹聴されるので、業務に就かせるのも好ましくありません。
【面談とメールで丁寧にヒアリング】
そこで、その従業員に対し、初期の時期に2回面談を実施して言い分を聞き取ることにしました。「不正のある現場では働きたくない」と言っていたので、希望する業務をヒアリングした上で、業務量が減るのは構わないのか確認。その後、メールでも3回ほど、従業員への説明を行いました。
従業員が不正を訴えているのは、会社の中核的な業務でした。その業務から外すとなると、業務の頻度が少ない現場や遠方の現場にならざるを得ません。そこの現場にも「出ない」と言われた場合、当日までに人員調整ができる現場、となるとさらに調整は難しくなります。
こうした調整を経て、数回(1か月に1度くらいのペース)でその従業員を仕事に配置しましたが、従業員が出勤してくることはありませんでした。
【本人はこれまでと同じ収入を希望していたが】
実は、従業員本人は不正が行われている現場は外してほしいといいつつ、今までどおりの月給を稼ぐことを希望していました。しかし、本人が希望する他の現場では、そんなに配置できる状況ではないことを説明し(他の現場の数が多くない、他の従業員もいるから一人頭の出勤回数は減る、遠方になる等)、月1回ほどのペースで現場に配置し、出勤要請を続けました。
更にいうと、現場からは、「あいつと一緒の現場になるなら辞める」という従業員が出るなど、問題が拡大。会社としても、不正があったと吹聴する社員を得意先の現場に回したくないので、月に1回も現場を確保するのも難しい状況に陥りました。ただし、このような状況であることをそのまま問題の従業員に伝えるわけにはいきません。弁護士としては、会社の要望を嘘にならない範囲で別の言い方にして問題の従業員に説明しました。実際には「他の現場や従業員の調整もあり、この現場しか回せない」「客先からの要望でその現場には別の人を回すから、あなたには回せない」などと伝えました。
【問題社員に対しても公平な扱いを】
また、会社としては、出勤してこない社員に対して、健康診断や年1回の法定研修を案内するのも無駄だと考えていましたが、弁護士の指導で、きちんと問題の社員に案内を送り、差別しないように取扱いました。結局、問題の社員は研修に参加しなかったため、年度を超すと資格切れで現場勤務ができない状況になりました。
半年を経った時点、1年経った時点で、今後どうやって勤務するのか、従業員と面談を行いました。半年の時点では主張変わらず「不正のある現場には行かない」と答えましたが、1年経った時点で「もう辞める」と合意退職に至りました。
自主退職への成功の秘訣
・会社は出勤の打診を続けたこと
・打診する現場も本人の希望を聞いた上で、会社の都合を説明し、不当な取り扱いをしなかったこと
・本人の希望どおりにすると、本人が困る(出勤できない、稼げない)という状況を作って、自ら退職させたこと
まとめ
従業員に会社の不正を吹聴されては、社会的信用にかかわります。すぐに辞めさせたいという経営者の思いは理解できますが、不当解雇と訴えられては、問題は更に長期化します。
今回の事例では、面談やメールで本人の希望を丁寧にヒアリングし、その上で、希望通りにすると、本人に不利益が生じざるを得ないという会社の状況を説明したことで、自主退職に至りました。幸い被害が拡大する前に、ご相談いただいたため、対外的な損失はなく、退職に至る経費もかかりませんでした。
弁護士が入ることで、当事者も感情を抑え、冷静に対応できたのも、短期間で合意退職ができた理由でしょう。
事例2:小さな不正を繰り返す社員をスピード退職へ
現場の一部を任せていた社員が独断に走るようになった上、少額ながら横領(社内用教材費)や、時間外営業など、問題行動を繰り返すようになったら?
経営者の立場からすると、これまで我慢し会社が不利益を被ってきたのだから、すぐに辞めさせたいと考えるのも無理はありません。しかし、我慢してきたことが必ずしも評価されるとは限らないのです。
今回は、弁護士が不正の客観的証拠を持って、直接問題社員と面談し、自主退職に至った事例をご紹介します。
会社の得られるメリット
・退職まで1か月のスピード解決
・退職のための費用は0円
・退職後の競業避止(競合関係にある同業会社への転職禁止)
会社の概要
資格試験用予備校を運営する会社。教室を2箇所構え、正社員は2名、アルバイトが5名程度。創業10年以上で堅調に生徒数、業績を伸ばしていました。社長は予備校講師という職業柄もあり、分析的な人柄である一方、話し合いで分かり合えるかどうかを大切にするアナログな一面も。
事案の概要
【独断に走り、問題行動を繰り返す社員】
とある資格試験用予備校で、教室の1つを任せていた社員が、独断に走るようになりました。具体的には、本社の定めた期限を守らない、所定の書式を使わない、生徒から講座欠席した場合に回数が消化されるキャンセルルールを守らないなどの違反行為に及ぶようになっていたのです。本社ルールに合わせるように指導しても、別の話題、別の不満を持ち出し、「こんなに忙しいんだから手が回らない」等と言って突っぱねる始末。
問題となる社員は、社長と年齢も近く、現場を任されているという自負からか、社長と自分が対等だと思っている節があり、時に共同経営者のような発言をすることがある人物でした。見かねた社長が行動監視を強めたところ、横領(少額の教材費を本社に報告せず、着服する)と時間外の営業(その営業をするために通常営業に皺寄せがある)が発覚しました。
これまでにも問題行動について社長が何度か話し合いを行いましたが、社長の指導も意に介さず、
その後も問題が繰り返されました。そうした状況に社長自身が言っても効果が望めないと、弁護士に依頼することになりました。
【長年の不正に社長は即時解雇を望んだが】
経営者は数年分の問題行動の証拠をためていて「こんなに長年我慢したんだから、すぐにクビにしたい」と弁護士に訴えました。
しかし、これには問題点も。それは、証拠が数年分あるということは、数年間ずっと社員の問題行動を正式に咎めずにきたということです。今まで見過ごしてきたのに、いきなり解雇をするとなると、有効な解雇の条件を満たさなくなってしまいます。
また、その社員の問題行動を調べてみると、1つ1つの問題が小さく、解雇に値するほどの重大な問題行動とはいえませんでした。たとえば、教材費の横領といっても、数万円程度であったし、非効率な教室運営をしているといっても、それでどれだけ運営に支障が出ているか、会社の損害が不明な状況でした。更に、この会社には就業規則がなかったため、これらの問題行動に対して懲戒をすることもできなかったのです。
【不正の客観的証拠を弁護士が提示】
一方、問題の社員が、これまで社長から注意されながらも、意に介さずに独自ルールで教室運営をしている様子から見ると、中途半端に泳がせてしまうと、より巧妙なかたちでルール違反をしたり、顧客を引き剥がして独自開業するおそれがありました。
そこで、写真や帳簿など、不正の客観的な証拠を持って、問題社員と直接面談を実施することにしました。問題社員からすると、突如、不正の証拠を突きつけられたかたちに。弁護士が、会社が把握している不正を説明した後、こちらからは「辞めろ」「辞めさせる」などとは言わず、会社がその社員への信頼を完全に失っていて、これまでと同じように処遇することは難しいという話をしたすえに「今後どうしていくのか」と聞いたところ、その場で「辞めます」と回答、自主退職となりました。
自主退職への成功の秘訣
・不正の証拠を確保して、突き付けることができた。
・こちらから解雇するとは言わず、従業員に決断させる。
・辞めないと言った場合の方策も準備する(就業規則がなく、懲戒処分は不可だったため、今後、業務方法について、会社からの締め付けが厳しくなることを示唆するなど)
・翻意されないよう、その場で退職合意書を書かせ、内容も十分に説明する。
まとめ
社長と年齢が近く、現場を任されていた社員。中小企業の経営者は、長年勤務している社員に対して信用を寄せていることから、特定の業務を任せきりにしていることが多いと思います。このように特定の人間に任せきりにしてしまう会社では不正が起こりやすい上、監視体制ができていないと、不正行為を発見するのも難しくなります。
今回の事例では、社長に代わり不正の客観的証拠を弁護士が問題社員に提示し、社員自ら自主退職の道を選択しました。すぐにでも辞めさせたいと願っていた社長も驚く1カ月のスピード解決でした。