コラム

他の人に比べ手当が少ないといわれた時に役立つ就業規則の書き方

会社が任意で支給する手当は、様々なものがあります。会社にとっては、気軽に与えられ、気軽にやめられるものという感覚がありますが、従業員にとっては大切な給与の一部であり、減らされることに多くの抵抗を呼びます。働き方改革の推進に伴い、近年は各種手当の見直しを行う企業も増えています。

1 手当は自由! だけど…

なんという名称の手当を設定して、どのような場合に、いくら払うか、すべて決めるのは会社の自由です。

しかし、一度、支払い始めた以上、途中で手当を廃止したり、減額したりするのは、従業員の既得権を奪うことになり、かんたんにはできません。

多くの会社では、従業員へのお小遣い感覚で手当を支払いはじめてしまい、「これはなんのための手当なのか」がはっきりしない場合があります。ですが、なんのために支払っているのか分からない状態だと、「なぜ私は手当をもらえないのか」と言われた時に対応に困ってしまいます。

支払基準を明確にすること、また、なんのために手当を支給するのか目的を明らかにすることが大切です。

2 就業規則と手当

(1)就業規則の記載をチェック

給与明細には記載がある手当でも、就業規則や賃金規程を見てみると、そこには記載のない場合があります。もしくは、似ているけれど微妙に名称や金額が違う手当になっていたりします。就業規則や賃金規程に明確な根拠がない場合にどう対応すればいいのでしょう。

(2)微妙に異なる場合

就業規則や賃金規程に書かれている手当と給与明細に書かれている手当を比べた時に、微妙に名称や金額が違う場合はどうすべきでしょうか。

この場合、同じ手当だと考えて、名称や金額を統一できるように整理しましょう。その際、その手当が、何のために、誰を対象に、どんな時にいくら払うのか、支払基準を整理しましょう。

整理した結果、これまでと支給金額が減る場合には、従業員に対して経緯を説明し、減額の同意書をもらいましょう。減額に全員の同意書がもらえない場合には、徐々に金額を減らしたり、代替する補填措置(2、3年程度の猶予期間で支払いを継続する、他の手当の支払を少し増やす、労働時間を減らす、負荷の多い業務を減らす 等)をするようにしてください。

(3)担当者が勝手に支払っていた場合

就業規則や賃金規程に書かれていない手当を、上司や給与計算の担当者が勝手に支払っている場合があります。このように、根拠なく支払われていた手当は、当然やめていいのでしょうか。それとも、もう既得権になってしまっている以上、支払を続けなければいけないのでしょうか。

このような場合、会社での慣行(労使慣行)が雇用契約の内容となって、法的に会社を拘束するかが問題となります。労使慣行として拘束力を持つためには、次の3つの条件を満たすことが必要です。

ⅰ長期間、繰り返し継続して行われたこと

ⅱ労使双方がその慣行に従うことを明示的に排除していないこと

ⅲその慣行が労使双方の規範意識に支えられていること

特にⅱ、ⅲがキーポイントになります。会社側が、それを会社のルール化する意識を持っていたかどうかがポイントです。労働条件の内容を決定する権限がある者が手当の支払をしていた場合には、会社の方でもルール化の意識があったと言えます。逆に、そういった権限のない、現場の管理者が独断で手当の支給をしていた場合には、その手当は雇用契約の内容にはなっていません。

このように雇用契約の内容になっていない手当は、会社を拘束しませんので、廃止できます。ただし、従業員からすると、突如、給与が減ることになるので、事前にきちんと経緯は説明しましょう。

3 同一労働同一賃金

同一労働同一賃金とは、同じ仕事をするなら、同じ金額の給料を支払いましょうというルールです。これは、有期雇用の労働者やパートタイムの労働者といった、いわゆる非正規雇用の社員と正社員の間に、不当な格差を生まないために定められたものです。

非正規雇用の社員でも、正社員と同じような業務量や責任を負っているなら、同じ水準の給与を与えなければいけません。

会社の払っている手当も、給与の一部ですので、ある手当は正社員のみに支給していて、有期雇用やパートタイマーには支給がなかったりした場合は、要注意です。その手当が何のために支給しているものなのかに立ち返り、有期雇用やパートタイマーに支給しない理由があるのかを検証しましょう。

イメージでいうと、実働に対する対価の性質を持つ手当は、正社員と非正規社員で同一に支給すべきです。一方で、異動の有無や長期雇用の定着など、正社員特有の事情に対応するための手当は、非正規社員に支給しなくてもよいことになります。

4 手当で揉めた影響

手当が少ない、支給していないというトラブルになったとき、まず、手当の不支給や金額の適正性が争点になります。そして、会社の言い分がとおらなかった場合には、過去3年に遡って、支払をしないといけません。それも、全従業員に対してです。1か月数千円の手当でも、積み重なれば膨大な額になってしまうのです。

5 要注意な手当5選

(1)固定残業

固定残業代は、法律のルールを守っていないと、残業代を全く払っていないことになってしまうので、運用に注意が必要です。手当の見直しをしてみると、残業代の支払いとは意識をされていなかったけれど、実際には残業代の支払として機能している場合があります。たとえば、「夜勤手当」「休日手当」「超過手当」などの名目で、1回いくら、1か月いくら、と定額を支払っていると、それは固定残業代の可能性が高いです。

固定残業代は、残業としての割増部分が、基礎となる時給部分と区別されていて、かつ、固定残業代を上回る残業があった場合には、不足分を支払っていないといけません。該当しそうな手当がある時には、これらのポイントをチェックして、是正しましょう。

(2)精勤手当

精勤手当、皆勤手当と呼ばれるような手当は、多くの場合、欠勤が少ないことに対する奨励として払われます。

休みなく働くことについては、正社員であろうと非正規社員であろうと、同じように奨励されるべきと考えられているため、支給基準は同一にするようにしましょう。

似たような名前で、精勤手当、奨励手当などの名称で、営業成績が優秀であったことに対して賞与のような位置づけで支払っている場合もあります。名称だけにとらわれず、自社の手当の意味を検証しましょう。

(3)作業手当

作業手当は、1出勤あたりいくら、とか、特定の作業をするといくら、という計算で支払われることが多いものです。

一方で、なんとでも捉えられる名称のため、支給基準があいまいになっていることが多い手当でもあります。手当を検証する際には注意をしましょう。

そして、実働に対して支払われる手当であれば、正社員と非正規社員で同じ金額にしましょう。

(4)住宅手当

住宅手当は持ち家のローンや賃貸物件の家賃を補助する目的で支給する手当です。具体的な支給額は、地域の家賃相場によって定められるのが一般的です。住宅手当を非正規社員に支給しなくてよいかどうか、判例は分かれています。なぜなら、会社によって雇用の実情がちがうからです。

ⅰ 正社員は全国転勤があり、非正規社員に比べて住宅に要する費用が高額になりがちなため、正社員の住宅手当を高くすることを認めた判例。(ハマキョウレックス事件、最高裁第二小法廷平成30年6月1日)

ⅱ 正社員かどうかにかかわらず、住宅手当が生活費補助のために支払われていたこと、正社員であっても転勤は必然でなかったことから、非正規社員に住宅手当を支払わないことは違法と判断した判例。(メトロコマース事件、最高裁令和2年10月13日)

(5)賞与・退職金

賞与や退職金は、会社の裁量が大きい項目と考えられていますので、支給に格差(正社員間・正社員非正規社員間)があっても、認められやすいです。

賞与や退職金は、正社員に与えられる業務の難易度や責任の重さや将来の人材確保、人材の定着といった観点から、正社員にのみ支給したり、支給基準を高くすることが認められます。

また、賞与や退職金は、同じ正社員間であっても、功労や人事評価の差があれば、金額に差が出てきます。同じ成績であっても、会社の業績次第で与えられる金額が例年と変化する項目でもあります。

賞与や退職金は、金額の差をつけることを認められやすいものといえます。ですが、賃金のことは、従業員が最も関心を寄せるものですから、その人に対してどうしてその金額になったのか、説明できるような支給基準で運用すべきでしょう。

5 まとめ

手当は給与の一部である以上、支給基準を明確にして、公正に扱わなければいけません。社歴が長い会社だと、「そもそもこの手当、なんのために支払っているんだっけ?」と曖昧になることも珍しくありません。社会の変化によって、手当の見直しを進める必要があるでしょう。

会社が独自で定められる手当は、企業の個性や従業員の思いが反映されやすく、従業員のモチベーションアップや企業のブランディングにも役立ちます。これからの時代に求められる手当はどのようなものか? 検討してみてはいかがでしょうか。

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