コラム

病気の従業員の休職から退職までのパーフェクトガイド

病気やメンタルヘルスの不調で働けない従業員が出た時、会社はどのように対応すればいいのでしょうか。対応のステップを5つに分けてご紹介します。

1 診断書の取得

従業員の健康状態を図る客観的な資料として、欠かせないのが診断書です。病気で働けない、休まなければならないとなると、従業員にとっては、収入の減少や職を失う可能性もあります。従業員にとって不利益な措置を取る以上は、必ず客観的な資料が必要であり、そのためにも診断書の提出を受けることは必須です。

従業員の誰もが、必ずしも体調不良を自己申告するとは限りません。その場合は面談が必要になることもあります。事前に上司など必要最低限な周囲の人間からの聞き取りや、会社に設置がある場合には衛生委員会や産業医にも相談し、想定される事態や対応について準備をしておきましょう。

従業員が診断書の提出を拒む場合には、面談を繰り返し、体調の聞き取りや仕事上での配慮を続ける必要があります。本人が収入減少を恐れて無理に働いている場合もあるので、診断書を提出しない理由を聞き取ることも忘れないようにしてください。もし、客観的に体調不良が原因で仕事に支障をきたしているのに本人が収入減少を恐れて申告を拒む、あるいは感情的な理由により病気を申告しない場合、休職命令や解雇を検討しなければいけないケースもあるので、それに備えて診断書を提出しない理由を聞き取り、議事録や面談録に残しておくといいでしょう。

2 労災か私傷病か

病気やメンタルヘルスの不調で働けない従業員に対処するとき、原因が労災なのか、労災以外の私傷病なのかの区別は重要です。なぜなら、労災なのか私傷病なのかによって、その後の対処が全く変わってくるからです。

労災の場合には、治療を受ければ労災から治療費の支払いがあり、仕事を休めば労災から休職の補償があります。そして、最も重要なのは、労災で休職した場合、休職期間中と休職明け30日間は解雇が禁止されることです。これに対して、労災以外の私傷病の場合には、会社の就業規則の制度に則り、休職や病気休業、解雇をしていくことになります。

特に、メンタルヘルスの場合には、業務上のストレスがメンタルヘルスの原因になっている場合もあります。業務上のストレスがあれば、すべて労災になるわけではありませんが、従業員が労災だと主張してくるリスクはあるということです。体調不良の従業員を私傷病として扱って休職させたところ、復職できずに退職を迫られる段階になって、危機を感じた従業員が体調不良は労災だから解雇禁止だと主張することも考えられます。労災であっても私傷病であっても、休職させる前に、本人から体調を聞き取り、労災を申請する意思があるのかどうかを確認しましょう。その際、単に聞き取っただけでは、後に言った言わないという議論になりかねませんので、必ず、議事録や面談録のような形で記録に残すようにしてください。

3 休職の実行

労災で仕事に就けない従業員を休ませる場合には、労災保険によって休職中の補償を行い、休職中や休職明け30日間は解雇禁止になります。

一方、労災以外の私傷病で働けない従業員に対しては、会社が就業規則で用意している制度を利用して休職させます。具体的には(1)休職届、(2)休職命令、(3)病気休職(休業)が考えられます。これらは、会社が任意で用意している制度なので、どの制度があるかは会社によって異なります。全てある場合もあれば、全てない場合もあります。どの制度もない場合に、従業員との口約束で休ませるのはやめましょう。長期間休ませたのに復職の目処が立たず、いざ辞めさせようとした時に揉めるリスクがあるからです。どの制度もないのであれば、就業規則を改定して、きちんと休職の制度を作ってから対処するようにしましょう。

(1)休職届

休職届は、従業員から休職の希望を受けるものです。休職届を出された時は、就業規則上の休職事由にあてはまるかを確認し、休職期間を決めて休職を認めます。

(2)休職命令

休職命令は、従業員からの休職の希望がなくても会社の業務命令として休職を命じるものです。従業員からの休職届がある場合でも、それに対する会社の決定として休職命令を出すというかたちにしている就業規則もあります。

(3)病気休職

病気休職(休業)は、休職届や休職命令の制度がない場合、他に利用できる制度として就業規則に規定がないか探すときに目を付けるものです。休職届や休職命令の場合は、決まった休職期間内に復職ができなければ退職することが定められているのに対して、病気休職(休業)は必ずしも退職を見据えた制度設計をしていない場合もあるので、休職届や休職命令がある場合にはそちらを優先して適用します。

4 復職

休職期間を経て従業員の体調が回復していれば、休職を終了して復職することになります。就業規則には復職の基準や診断書の提出、主治医面談、産業医面談、復職の命じ方などの復職までのひととおりの手続きを定めておくほうがいいでしょう。

復職といっても、休職前の業務に直ちに戻ること意味するわけではありません。休職前の業務を軽減するかたちや他の軽易業務に変更をする必要がある場合であっても、相当の期間内に元の業務に従事できる見込みがある場合には、会社は復職を認めなければいけないとされています。休職明けに直ちに元の仕事に復帰できないからといって、復職できないと決めつけてはいけません。

休職から復職(あるいは復職できない場合の退職)までの段階をどれだけ細やかに定めるかが、会社の対応に違法や問題があったと言われないために、とても大切なことです。従業員本人との面談や医師の診断書、医師面談を通じて本人に業務復帰の可能性がないのか、可能な働き方がないのかを慎重に検討しましょう。

5 退職

復職できない場合には就業規則の定めにしたがって対処することになります。多くの場合、休職期間を明けても復職できない場合には退職となるように規定しています。

もし、休職制度がまったくない場合には、就業規則の解雇の規定をよく確認し、解雇事由にあてはまるのか、つまり、雇用契約で求められている労働能力を提供する見込みがないといえるのかを慎重に判断し、解雇に踏み切ることになります。

(1)慎重な検討

休職制度に基づき退職する場合も、休職制度がなく解雇に踏み切る場合も、どちらも、従業員からの退職の希望なく会社を辞めさせるものですから、性質としては解雇になります。そのため、就業規則には容易に辞めさせられるかのように定めていたとしても、解雇の場合と同じくらい慎重に、その従業員が解雇に値するのかを検討しなければいけません。そのためには、診断書の内容、医師面談の内容、従業員本人の就業状況、からして、労働能力を提供する見込みがなく、解雇するしかないといえなければなりません。社内の検討だけではなく、主治医の意見や設置がある場合には衛生委員会や産業医の意見、社労士や弁護士への相談を利用するようにしましょう。

(2)復職と再度の休職

もしも退職または解雇に踏み切ることに不安がある場合には、復職させて働きぶりを注視し、体調やメンタルへするが悪化する場合には、再び休職の手続を取っても構いません。

(3)退職届

休職後に復職できない従業員を退職させる場合も、休職制度がなく解雇を検討する場合も、どちらも辞めさせるにはハードルがあるものです。そのため、退職や解雇を迫る前に、従業員と面談し、自主退職する意思はないのかを確認するといいでしょう。従業員が自主退職に応じる場合には、退職願や退職の合意書をつくり、必ず書面化しておきましょう。

6 まとめ

休職から退職までは、拙速にならず、丁寧に進めなければいけません。まずは5つのステップがあるということを知り、そのうえで1つ1つのステップを丁寧に実行してください。また、休職にまつわるトラブルを予防するために、就業規則の整備を今一度確認することをおすすめします。

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