社内でハラスメントが起きた時、上司や社長がハラスメントの存在に無頓着だったり、問題視はしつつハラスメントではないと放置していたりする企業があります。ハラスメントが明るみに出た後も同じような対応をすると、事態がより深刻になることも。今回は、5つの失敗事例から、会社が守らなければならないハラスメント対策について解説します。
1.よくある失敗例5選
(1)ハラスメント窓口の不備
職場におけるいじめや嫌がらせを防止するために「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」が成立。この法律によって、令和4年4月1日から、すべての企業にパワハラ相談窓口の設置が義務付けられるようになりました。
従業員を1人でも人を雇っていたらハラスメント窓口を設ける必要があります。義務化されたのはパワハラの相談窓口だけですが、パワハラに限らず、セクハラ、マタハラなど、あらゆるハラスメント全般に対応するのが望ましいとされています。
しかし、相談窓口を設けていない企業や、窓口はあっても社内に周知されていない企業が多いのが実情です。また、対応時間が勤務時間に限られるなど(ただし、働き方による。勤務時間中、少しも上司の目を離れたり、作業から離れる時間がない場合、休憩時間が短い場合など、実際には相談窓口に行けない場合に問題)、利用者目線になっていないケースや、ハラスメント以外の相談を即断るなど、対応に問題のあるケースが多く見受けられます。
(2)かたちだけのコンプライアンス
企業の多くが就業規則にハラスメント禁止に関する規定をおいています。しかし、就業規則に記載されているだけで、研修を行っていない、あるいは、一度実施しただけなど、ハラスメントに対処する正しい知識や意識が備わっていないという企業が存在するのも事実です。かたちだけで実態を伴わないと、ハラスメントがハラスメントと意識されずに横行したり、対処した管理職によって二次被害(さらに傷付ける言動)が起こったりするリスクがあるため、企業にはしっかりとした対応が求められます。
(3)事情聴取のルール違反
ハラスメントの相談を受けたら、被害者、加害者、時には周囲の第三者への事情聴取を行います。事情聴取の基本は、事実を徹底的に聞き出すことにあります。
よく見受けられるケースとして、相談を受けた人が相談した人よりも目上の立場だった場合、説教をしたり、自分の経験を語ってしまったりしがちです。また、相談を受けた人に偏見や決めつけがあると、事実関係を正確にヒアリングしていないことも多いので、このようなルール違反に陥らないよう注意する必要があります。
(4)先入観・思い入れ
特に中小企業で従業員数が限られていると、加害者、被害者の人間性や職場の人間関係を知っているだけに、「きっとこっちの言っていることが正しいんだろう」と先入観を持って接してしまうことが少なくありません。また、被害者と加害者の関係をうまく取り持ちたいと考えることや、どちらかに有利にしてあげようと思い入れを持ってしまうことがあります。その結果、公平に見られないと感じた被害者はさらに不満を抱くこととなり、社内では解決できないと考え訴訟に発展してしまうこともあるのです。
(5)マニュアル不足
相談を受け、事実を聴き取ったあと、会社としてどうするか決まっていないことも問題です。相談内容によっては、懲戒、勤務条件の調整、休職などが必要になるため、他部署との連携が求められますが、相談窓口担当者だけで抱え込んでしまい、結局何も対処していなかったり、対処が遅れているうちに被害が深刻になったりすることもあります。
2.これで万全、改善の5ポイント
(1)使いやすい窓口の設置
まずは、実際に窓口への相談があることを想定して、窓口の運用をしてみてください。相談窓口の担当者に十分な教育をし、社内教育が追い付かない場合には外注してもいいかもしれません。相談窓口があることをポスターや社内報で定期的に周知し、勤務時間内外での柔軟な利用を可能にします。内容がハラスメントかどうかはっきりしない相談でも、門前払いすることなく、誠意をもって対応するように心がけてください。相談窓口にはセクハラ、マタハラ相談に備え、女性の担当者もいる方が望ましいでしょう。
(2)定期的な研修
社内にハラスメント対策を定着させるために、定期的な研修の実施は欠かせません。開催時期を予め決めて管理職研修や窓口担当者の研修、ときには一般従業員向けの研修を行う必要があります。法令が変わったタイミングや耳目を集めるニュースがあったタイミングで研修を行うのもいいでしょう。研修の外注化や会社が所属している団体などで開催している研修に参加する他、研修をディスカッション形式で行うのも受講者の意識を高める効果が見込めます。
(3)事実の聞き取りの徹底
何より大切なのは、事実関係をきちんと聞くということです。エピソードを聞いていると、話者の推測や感情や評価と事実がごちゃ混ぜになってしまうことが多々あります。事実関係をきちんと聞いていないと、被害者、加害者、第三者の言い分が食い違った時に何が正しいのか判断することができなくなります。事情聴取の際は、評価的な部分と事実をきちんと聞き分けて整理することが何より大切です。
(4)公平な対応
相談窓口の人間は、誰に対しても公平に接することが重要です。先入観や思い入れはNGです。聞き取りの際、対象者の話に疑念を抱いても、自分自身が疑っていることを表すのではなく、「こうとも捉えられるけど」というように客観的な言い方に直す必要があります。
当事者の間を取りなそうとするのは、あくまで終盤、歩み寄りが期待できるときに限ります。最初の事実聴取の段階で間を取りなそうとすると、話をきちんと聞いてくれないと捉えられてしまいかねないので、NGと心得てください。
(5)連携体制
ハラスメントの相談はいつ寄せられるかわかりません。相談を受けた時のその後の対処を事前にフローに作っておく必要があります。相談窓口担当者が社内の規則やベースとなる法的知識を理解しておくことも欠かせません。人事部との連携体制、当事者の部署の上司との連携も必要になります。
ただし、ここで気をつけておかなくてはならないのは、「相談窓口の役割は裁定者ではない」ということです。相談を聴き取り、その後の適正な対処につなげるのが役割ですから、ハラスメントの事実を察知したら、関係する部署と連携して対応策、再発防止策を検討しましょう。相談窓口の担当者がハラスメントの有無を判断して、人事上の措置を決定して、再発防止や当事者への説明をすべて担わなければいけないわけではありません。
まとめ
ハラスメント相談はある日突然やってくるものです。うちの会社ではハラスメントはないなどと思わず、従業員がハラスメントの問題を相談しやすい環境を整え、いつ相談が舞い込んでも対応できる体制を心掛けましょう。