コラム

弁護士が教える問題社員対応、辞めさせるコツ

「問題社員に手を焼いている」「仕事ができないので辞めてほしいけれど、何から手をつけていいかわからない」。どのような問題社員を抱えているかは、企業により千差万別ですが、共通する対応のコツをご紹介します。

1 問題社員たる理由

「繰り返し指導しても同じミスを繰り返す」「上司に対して反発する」「同僚に威圧的な態度を取る」「マイルールで仕事をする」等、一言で問題社員とは言っても様々なタイプがあります。しかし、問題社員には一つの共通点があります。それは「自分の仕事のやり方が正しい、間違っていない、職場で許されている」と自分の問題点の自覚が欠けていることです。このように自分には問題がないと思っている社員に対して「クビにする」と解雇を言い渡したり「辞めてくれないか」と自主退職を促したりしたら、どうなるでしょうか? 当然、問題社員は素直にそれを受け入れるはずはありません。むしろ、「自分は間違っていないのに、会社から不当な扱いを受けている」と、今まで以上に反発して態度を硬化させ、扱いにくくなるかもしれません。

問題社員たる所以は、自分の問題点を自覚していないことにあります。たとえ会社がその社員の問題点を把握し、本人に頭ごなしに指摘しても、自分が間違っているという自覚がないため、素直に指摘を受け入れることは見込めないのです。

2 解雇は最後の手段

手に余る問題社員に対し、手っ取り早く「クビにしてやろう」と考える人は多いのですが、企業が従業員を解雇するためには2つの条件があります。それは(1)客観的合理的理由と(2)社会的相当性です。この2つを満たすことはほぼないといってよく、解雇はほとんどの場合、失敗に終わります。解雇に失敗した際、企業が負うリスク、中でも金銭的なリスクはとても高いため、企業側には慎重な対応が求められます。解雇の条件とリスクについては【いらない社員を辞めさせる唯一の方法、知っていますか?】をご参照ください。

解雇ができるのは、社員が多額の横領をしたり、仕事上、重大な暴力事件を起こしたりといった極端な場合に限られると認識したほうがいいでしょう。数万円の横領や、社員同士のじゃれあいからケンカになった様なケースは、問題を起こした社員にも汲むべき事情があるため、解雇という判断は避けるべきです。

では、解雇ができないとなると、問題社員はずっと会社におかなければならないのでしょうか? 答えはノーです。企業は対応を諦めるのではなく、問題社員の自主退職を目指して対応すべきなのです。

3 辞める意識付け

問題社員は、自分に問題があることの自覚が欠けているからこそ、問題社員となるのです。企業側には、そのような問題社員の現状認識に風穴を開けるアクションが求められます。具体的には、会社がその社員を評価していないこと、その社員が今のままでは会社から受け入れられないことを示すことです。自主退職を意識させる第一歩は、辞める意識付けにあります。

4 いままでの対応の問題点

そうは言っても、会社としてもこれまで問題社員を放置してきた訳ではないはずです。「散々注意をしても聞かない社員なのに、今さら手を打って、本人が辞める気になるなんてことがあるのか?」そう思われる方も多いでしょう。しかし、今までの会社の対応を振り返ってみてください。このようなことはありませんでしたか? その場で上司が口頭で注意するだけで終わっている、何度も同じミスをすることに対して次第に口を出さなくなっている、面談で注意しても言い返されると「今度からは気をつけてね」くらいでお茶を濁している。

このような対応では、問題社員を野放しにしているのと何ら変わりはありません。問題社員は、自分が間違っていない、むしろ会社が間違っている、会社の自分への評価は不当だ、くらいに考えているので、単に注意を与えたところで「うるさいな」としか思っていないでしょう。「その場で聞き流しておけば、おとがめなし」で済ませてしまうと、問題社員の意識はいつまでたっても変わりません。これでは、辞めてもいいかという意識が生まれることはないでしょう。

5 辞めさせるためのステップ

自主退職を促すためには、以下のステップに沿って行動することが求められます。

(1)ルールの整理

正しいルールに則って指導をしないと、社員は余計に反発をします。仮に企業側の指導自体が間違っていた場合、その指導に従わなくても社員にペナルティを課すことはできません。まずは会社での仕事の手順、マニュアル、雇用契約書や就業規則のルールの再確認が必要です。

雇用契約書や就業規則の確認のポイントについては【問題社員を自分から退職させるために指導者がすべきこと】仕事上の手順やマニュアルの確認のポイントについては【辞めさせたい部下とトラブルにならないために必要な実践的対処法】をご参照ください。

(2)指導、面談

同じミスを繰り返す、自分のルールで仕事する、このような社員には、日報を書かせるようにしてください。問題社員一人に集中的に指導するためであれば、その社員ができていない作業のチェック項目を設けて、本人のコメント欄に仕事の達成度を申告させるなどの工夫をし、日々の業務での課題や問題点を洗い出しましょう。

指導役に当たる上司や先輩は、日報に記載された内容と、実際のその日の仕事内容を比べて、できていないことがあれば、コメントを入れて返すようにします。集中的に一人の問題社員を指導している場合は、指導役からの所感に対して、さらに本人のコメントを書かせて、改善の約束をさせたり、改善方法を本人に考えさせたりすることも有効です。また、社員間や取引先とのトラブルを起こされた場合は、トラブルの相手から、簡単な報告書やメールなどでトラブルの内容を報告してもらうと、指導の資料になります。

このように日々の指導を積み重ねたタイミングで、問題社員と面談を開き、できていない点やトラブルを指摘します。課題や問題点については、本人に改善策を考えさせたり、会社から指導書を渡したりして指導する他、トラブルについては顛末書や反省文の提出を求めます。ある程度、指導と面談を重ねたところで、「当社の求める能力に達していない」「うちでは評価できない」「どこか別の会社で活躍の場を探したらどうか」といった感じで退職を促すことになります。

ここで注意しなければならないのは「おまえは仕事ができない」「使えないやつだ」と人格を否定するような言い方をしてしまうことです。こうした発言をしてしまうと、相手の反発を招き、スムーズに「辞めてもいいか」と思ってもらえなくなります。あくまでも、うちには合っていないけれど、他に活躍できる会社はあると思うよ、というスタンスで臨むようにしてください。

(3)金銭的な準備

いくら指導を積み重ね「仕事ができていない証拠」を突きつけたとしても、現実問題として、やはり金銭的に辞めるのを躊躇う社員がいることは否めません。生活の糧を失うわけですから、「次の仕事がすぐに見つからなかったらどうしよう」と不安に思うのは自然なことです。そのような事情を考慮し、最後の一押しとして、会社が金銭的な補償を用意しておくことも大切です。金額の目安としては給与の3か月分くらい。それくらいあれば、当面の不安感を払拭できるのではないでしょうか。

「辞めさせるのに、なんでそんなに払う必要があるのか」と思うかもしれませんが、解雇で無理矢理辞めさせて、訴えられた時のリスクの方がずっと大きいのです。裁判となれば、少なくとも1年以上かかりますし、その上負けたら、裁判の間働いてない1年分の給料の支払いが必要になるからです。

(4)退職合意書

問題社員が自ら「辞める」と言ってきたら、退職の合意書を作りましょう。せっかくそれまで上手く対応していたのに、退職合意書がなかったばかりに、後から問題社員に「無理矢理解雇された」と訴えられて、裁判で負けることがこれまで多々あるのです。自分で納得して辞めた証拠として、退職合意書はマストといえます。あるいは、社員が自分から提出した「退職願」も、自らの意思で辞めた証と見なされます。

退職の在り方として、自己都合退職とするか、会社都合退職にするかは、微妙な問題です。会社から「辞めたらどうか」と退職勧奨して、退職にいたった場合は、会社都合退職になります。辞める問題社員から、会社都合退職にしてほしいと言われたら、トラブル回避の意味でも聞き入れた方が良いでしょう。

6 心得

辞めさせるステップを踏む上で、会社として大切な心得が5つあります。

(1)事実を積み上げる

日頃の働きぶりから、十分に問題のある社員であると認識していたとしても、指導や面談は、日報などの記録(つまり、証拠のある事実)に基づいた対応をしましょう。事実ではあるけれど、証拠のないことを理由に厳しい指導をしたり、懲戒をしたりすると、結局は会社が不利になってしまいます。

これは、今から事実を積み上げることになるので、これまでの時間を無駄にしたように思われるかもしれませんが、決して焦ってはいけません。問題社員であるなら、日常業務の中で、また問題を起こすはずなので、その事実をしっかり記録しておくことが大切です。

(2)辞めさせることを主眼にしない

「辞めさせたい」という気持ちが先行すると、つい揚げ足を取るような指導や、極端に厳しい指導に偏りがちになります。そのような指導は正しい指導とはいえませんし、問題社員の方が警戒心を抱き、益々意固地になる恐れがあります。

(3)一貫した態度

会社側には、何より正しいルールに基づき、正しい指導を一貫することが求められます。問題社員は反論したり、反発したりしますが、それに対して対応を和らげたり、感情的になったり、指導を辞めたりすることがあってはなりません。相手の反応に関わらず、指導を一貫することです。たとえ相手が指導に従わなくても、それは、指導違反の実績を積み上げられるだけなので、問題社員の不利にはなりますが、会社側の不利にはなりません。

(4)狙い撃ちにしない

問題社員への執拗な指導や、他の人の違反には全く指導をしない、問題社員の言い分を全く聞かないという指導は、正しい指導とは言えず、単なる狙い撃ちになってしまいます。このように偏った不当な指導に対しては、従わなくてもペナルティは課せられません。

会社はあくまで、正しい指導を一貫することが重要です。その過程で、問題社員自ら「会社から認めてもらえない、もう辞めてもいい」と思わせるような取組みが求められるのです。

(5)お金を払えば辞めさせられると思わない

辞める最後の一押しのために、金銭的な補償は考えておく必要があります。しかしながら、お金を払いさえすれば、辞めさせられると安易に考えてはいけません。これは、解雇をするときでも、自主退職を促すときでも同じことです。

4 まとめ

問題社員に対し、会社は一貫して正しい指導をすることが求められます。最終目的は問題社員を辞めさせることにありますが、辞めさせることを意識しすぎると、指導が苛烈になり、誤った指導を行うことになりかねません。一方、正しい指導をしていれば、たとえ問題社員の反発を受けようとも、「折れる必要はない」と、自信をもって堂々と対応できます。正しい指導と正しいステップを踏むことが、問題社員とのトラブルを避けて自主退職への道を拓く鍵となります。

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