コラム

いらない社員を辞めさせる唯一の方法、知っていますか?

指示に従わない、教えたとおりに作業しない、取引先とトラブルを起こす、そんな会社にとっていらない社員を解雇できるか、実際にどうやって辞めさせるか、その方法を解説します。

1.解雇に不可欠な2つの条件

いらない社員を直ちに辞めさせたい、そう考えた時に会社としては、まず、解雇を検討するでしょう。

では、どんな時に解雇ができるか。まずは解雇の条件を確認しておきましょう。

解雇の条件は、労働契約法16条に次のように定められています。
(ちょっと難しく感じるかもしれませんが、大切な点ですから、知っておいてください)

1 解雇に客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)
2 解雇をすることが社会通念上相当であること(社会的相当性)

このように、解雇には、客観的合理性と社会的相当性が必要とされています。

では、客観的合理性と社会的相当性とは、具体的にはどんなことなのか、確認していきましょう。

条件その1)客観的合理性とは

解雇をするためには、客観的合理的な理由が必要です。ですが、客観的合理的な理由とは、どういうことを指すのか、あまりイメージできないかもしれません。

誤解をおそれずにいうと、「誰から見ても、辞めさせて当然」といえるような理由があることを客観的合理的な理由といいます。

実際に解雇するときは、就業規則に書かれている解雇事由に当てはまるかどうかを検討することによって、客観的合理的な理由の条件をクリアできているかを確かめます。

ただし、就業規則に書いてありさえすれば、些細な理由でも解雇できるわけではありません。書かれている解雇の理由が「誰から見ても、辞めさせて当然」といえるようなものでなければいけないからです。

就業規則の解雇事由にあてはまるか

解雇に客観的合理的な理由があるかは、就業規則の解雇事由にあてはまるかどうかをまず検討します。ですが、就業規則には、解雇事由が抽象的に書かれていることが多いです。そのため、実際に解雇しようとするときは、就業規則にあてはまるのかを慎重に判断することになります。

例えば就業規則に「勤務態度が著しく不良で改善の見込みがないとき」解雇できると書いてあったとき、どんな勤務態度であれば、「著しく不良」といえるでしょうか? どんなときに「改善の見込みがない」といえるでしょうか?

勤務態度が悪い社員を解雇しようとするのであれば、(1)勤務態度の悪さがどの程度なのか、(2)具体的に会社にどんな悪影響があったか、(3)勤務態度が悪い原因に会社の落ち度はないか(会社が間違ったルールを押し付けたり、問題のある上司への反発を招いていないか)、(4)改善のための注意・指導を尽くしたか、などを考慮する必要があります。

社長や上司が辞めさせたいと思っただけでは、「誰から見ても、辞めさせて当然」といはいえない、客観的合理的な理由があるとはいえない、という点を押さえてください。

条件その2)社会的相当性とは

解雇の客観的合理的な理由があっても、解雇をすることに社会的相当性がなければ、解雇できません。社会的相当性、聞きなれない言葉ですよね。どういうことか分かりにくいと思います。これも誤解を恐れずにいうと、「解雇する以外に方法はなかったか」ということです。

解雇する以外に方法はなかったか

社会的相当性とは、「解雇すべきかどうか、解雇する以外に方法はなかったかいか」、を判断するための基準と考えてください。

解雇したいと思っている人の行為が就業規則に書かれている解雇事由にあてはまったとしても(解雇の客観的合理的な理由あり、といえる)としても、その人の行為の(1)程度や(2)経緯、(3) 同様のケースでの処分例、(4)その人の勤続年数や年齢、生活状況、転職の可能性など、様々な要素を考慮して、本当に解雇する以外に方法はなかったのかを判断するわけです。

実際の事例から、どんな場合に解雇がOKになるか、どんな場合にNGになるか、見てみましょう。

2.解雇がOKになった事例

裁判所で解雇が問題なしと判断されたA社・B社の事例を確認してみましょう。

A社では、ある社員が、納期に間に合わない仕事があるにも関らず、上司に報告や引継ぎをせずに定時で帰宅したり、会社内で会話を録音したりといった問題行動を繰り返していました。

会社がその社員を指導しようと、独自のワークシートを用意して提出させても、仕事と全く関係のない内容を書いたり、自分の意見に固執したことばかりを書いていたのです。

この事例では、会社の指示を受け入れないこの社員の姿勢に改善が見込めないと判断され、解雇が有効と判断されました。(東京地裁立川支部平成30年3月28日判決)

B社には、他の社員に高圧的、攻撃的な態度をとり、トラブルばかり起こす社員がいました。

会社は繰り返し面談を実施して注意を行ったり、譴責処分(懲戒処分の一種)を行うなどして、改善の機会を何度も与えましたが、この社員の言動が変わることはありませんでした。

この事例でも、指導の経緯を踏まえて解雇を有効としました。(東京地方裁判所平成26年12月9日判決)

3.解雇がNGになった事例

次に、裁判所で解雇に問題ありと判断されたC社とD社の事例を確認してみましょう。

ある社員が同僚の女性社員を大声で叱り、さらにその社員は、上司の部屋に逃げた女性社員を追いかけ、上司の部屋でも暴言を吐き続けました。C社はこの社員を解雇しましたが、解雇はNGと判断されてしまったのです。(東京地方裁判所平成31年2月13日判決)

この事例では、叱られたり、暴言を受けた女性社員にも、以前から勤務態度に問題があったため、解雇された社員と不仲になっていました。そのため、女性社員を叱ったり、暴言を吐いたことには、解雇された社員にも事情があったのです。

解雇された社員の粗暴な言動には問題があるものの、会社としては、指導や警告をして経過を観察すべきであったと判断された次第です。

一方のD社は、代表者と口論となり、代表者の目の前の机を蹴飛ばした社員を解雇してしまいました。ちなみに、この社員は、元々は取締役でしたが、経理の不備が重なり、降格となった人物です。

この事例では、代表者への暴力は、元々は会社側が発端で起こった口論の末に行われたものであること、代表者を直接殴る蹴るした訳ではなく、暴力としては軽いものであったことから、解雇はNGと判断されました。(東京地方裁判所平成31年4月26日判決)

この社員には、他にも会社の金銭管理がいい加減だったり、交通違反で逮捕されるなどの問題がありました。ですが、これらの問題はどれも、会社の運営に影響を及ぼしたり、会社に損害を与えるほどではないため、解雇の理由にならないとも 判断されています。

4.なぜ解雇がNGになるのか

実際に裁判になった4つの事例をご覧いただきましたが、「こういう場合には解雇できる」というイメージを掴むのは、難しいかもしれません。そうだとすれば、その原因は、解雇の有効要件の1つ、社会的相当性にあります。

社会的相当性の有無を判断するためには、様々な事情を考慮して、本当に解雇する以外に方法はなかったのかを考えなければなりません。

会社としては十分に我慢をした末に「解雇するしかない」と決断しても、裁判では全く別の角度から「まだ解雇する前にやれることがあった」と判断されてしまうことがあるのです。

たとえば…納期に間に合わせなかったり、指導に対して反抗的で、社員の勤務態度がものすごく悪かったとしましょう。

ですが、その社員が入社してまだ数ヶ月で、納期の重要性を理解していなかった場合はどうでしょう?会社が丁寧な教育しないまま、威圧的な指導を繰り返していて、その社員が反発していた場合はどうでしょう?

本当に解雇する以外に方法はなかったと言えるでしょうか。会社がもっときちんと指導をしていればよかった、と言われてしまいそうですよね。このような場合であれば、解雇はNGになる可能性が高まります。

このように、解雇がOKになるかどうか判断するには、その従業員の(1) 問題行動の程度や(2)問題を起こした経緯、(3)同様のケースでの処分例、(4)その人の勤続年数や年齢、生活状況、転職の可能性などの、様々な要素を考慮しなければいけないわけです。

5.解雇に潜む会社のリスク

もし解雇をした場合、納得できない社員が、会社に対して裁判を起こしてくることがあります。

裁判になってしまうと、解雇がOKとされるのは、解雇する以外に方法がなかったといえるような場合に限られてしまいます。残念ながら多くの場合、裁判で解雇はNGと判断されてしまうことが多いです。

では、一旦は解雇をしたのに、それがNGだったことになると、会社にはどんな影響があるでしょう。

解雇がNGになった時の会社への影響

解雇をしたのに、後に裁判などで、その解雇がNGだったと判断されてしまうと、会社には次のような影響が生じます。

  ・解雇した問題社員が会社に舞い戻ってきてしまう。
  ・問題社員がおとがめなしで戻ってくるので、他の社員の士気が低下する。
  ・その社員に対して、解雇してから復職までの給与を払わなければいけなくなる。

実際に問題社員が会社に戻ってきてしまうのも悩ましい事態ですが、それよりも現実的な問題として、解雇を言い渡してから実際に職場に復帰するまでの給与を会社が払わなければいけなくなるということがあります。

なぜこのようなことが起こるのか、ご説明します。

解雇のリスクは200万円以上

当然ですが、解雇を言い渡したあとは、その社員は会社で働いていないはずです。それなのになぜ、復帰までの給与を支払わなければいけないのでしょう。それは、その社員が働けなくなったのは、会社のせいだからです。

社員は解雇されたくない、働きつづけたいと思っていたのに、会社がその社員を解雇して無理やり会社から追い出したことになります。

しかもその解雇がNGだったことが判明して、本当なら働かせて給与を払わなければいけなかったということになるので、会社はその社員が復帰するまでの給与を払うことになってしまうのです。

これは法律のルールですから、解雇がNGと判断された場合、この事態を変えることはできません。

ところで、1人の従業員の年収はどれくらいでしょう? 少なくとも200万円くらいはあるのではないでしょうか。

解雇したのは間違いだと訴えられると、裁判で決着が着くまでに1年くらいかかってしまうことが多いです。そうすると、解雇をするには、その社員の1年分の給与をムダに払うリスクを負うことになってしまうのです。

解雇して勝ち目があるならまだしも、解雇がOKになる場合は非常に少ないのが現実。このように、解雇には多くのリスクがあることからすると、社員を辞めさせようとするとき、解雇という手段に出るのは極力避けるべきなのです。

6.解雇以外の辞めさせる方法

ご覧いただきました通り、解雇がOKになることは非常に少なく、一方、解雇がNGになった時は、会社には大きな影響が及びます。そのため、解雇は極力避けていただきたいです。

しかし、辞めさせたい社員はどうしても生まれてしまいます。そんな時に会社はどう対処すればいいのでしょうか。その方法として一番おススメしたいのが、合意退職です。

合意退職とは、読んで字のごとく、退職することを社員と合意することです。会社が一方的に解雇を言い渡すのとは違い、合意退職は、社員と話し合い、このまま会社にいることはできないと自覚してもらい、合意のうえで退職してもらうのです。ですが、社員としてもそう簡単に辞めてくれるわけはありません。

どのようなステップを踏んで、社員に退職を納得させるか、以下の記事から順を追ってご紹介します。

7.まとめ

解雇するためには、客観的合理的な理由と社会的相当性という2つの条件をクリアしないといけません。しかし、この2つの条件をクリアするのはとても難しく、解雇に成功する事例は多くないのが実際です。

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