会社の規模に関わらず、設立当初の株主が時間の経過と共に経営から退いてしまったり、転居したりする等、疎遠になってしまうことは少なくありません。今回は、連絡が取れない株主を抱えるリスクにつき、事例を交えてご説明します。
1 いない株主を無視した株主総会
X社では、設立時に3人の株主ABCが存在しました。3人はいずれも高齢で、そのうち現在、経営に関わっているのはAだけでした。BCは10年以上前に経営を退き、今では住所も連絡先も分かりません。AはすでにBCは株主ではないものと考え、株主総会は議事録だけ作成して、A一人が出席し、Aの賛成のみで議案を可決したことにしていました。
ある時、Aは自分の後任の経営者として、Yを指名し、株主総会を開いてYを取締役に選任したことにしました。ところがその後、YはAと仲違えし、YはAがこれまで、かたちだけ開いたことにしていた株主総会を行なっていたことについて、Aを糾弾しはじめました。AはYに何か対策を講じようにも、BCという所在不明の株主がいるなかで、どのような手続や策を講じられるのかわからなくなってしまいました。
2 連絡が取れない株主が生まれる原因
なぜ連絡の取れない株主が生まれるのでしょうか? 中小規模の株式会社であったとしても、株主が全員、経営に参画しているわけではありません。
例えば、会社を設立する時に、資金を集めるためであったり、設立の記念的な意味合いで、会社経営には関わりの薄い知人や経営陣の配偶者などに株式を買ってもらうことがあります。
他にも、当初は共同経営者として名実ともに経営に参加していたけれど、仲違えをしたり、年齢などの問題で経営からフェードアウトしてしまった。経営からは退いたけれど、株式は持ったままで、今となっては連絡も取れないほど疎遠になってしまったというパターンもあります。
このように、会社の経営に参画していないのに、株式を持たせたままにしておくと、連絡が取れない株主が生まれてしまいます。
3 連絡が取れない株主のリスク
株主の一部と連額が取れなくても、日常的な経営に支障が生じることはあまりありません。しかし、連絡が取れない株主をそのままに放置していると、どのようなリスクが生じるでしょう。
(1)株主総会の運営
いくら連絡が取れず、株主総会に参加することも期待できないような株主であっても、株主である以上、株主総会に参加する権利があります。そういった株主を最初から無視して株主総会を開くことはできません。
つまり、全ての株主に対して、株主総会の招集通知を送らなければならないのです。来ないとわかっている株主に対して招集通知を送るのは手間ですし、通知を送るコストもかかります。ですが、これを面倒がって行わずにすませてしまうと、その株主総会の決議は、法的に不備があるということになってしまい、取り消しの対象になってしまいます。
(2)さらなる混迷
連絡の取れない株主をそのまま放置してしまうと、時間の経過とともに、住所や連絡先をつかむことが一層困難になってしまいます。
さらに悪いのは、その株主が死亡していた場合です。株主としての権利は相続されますから、会社の知らない間に株式が相続されて株主の人数が増えているという事態が起こります。株式を相続した相続人は、会社の経営に対して思い入れがないことが大半ですから、余計に連絡が取りづらくなりますし、中には会社に対して、高い金額で株式を買い取るように要求してくることもあります。
(3)支配権争いへの利用
もしも会社内で経営方針などを巡り、対立が起きていた場合、どちらの陣営にも属さない少数株主は、支配権争いを決する鍵になります。
例えば、取締役をAにするかしないかで、争いがあり、A陣営の株主が45%の票を、Aに反対する陣営の株主が40%の票を集めていたとします。この状態で会社とは疎遠になっている株主が15%の株式を保有していた場合、反対陣営はこの15%の株主を味方につけてしまえば、形勢逆転して支配権争いで勝つことができるのです。
このように、少数株主を放置しておくことは、経営の安定性を阻害する要因にもなるのです。
4 少数株主を排除する手続
では、会社と疎遠になっている少数株主がいる状態を解消するには、具体的にどのような方法があるでしょうか。
(1)株式の売買
株式は物と同じように売買することができます。誰かが少数株主とコンタクトを取り、保有している株式を売ってもらえば、少数株主が放置されている状態は解消されます。
株式を買い取るのは、誰でも構いません。取締役や代表取締役が株式を買い取ってもいいですし、既存の株主が株式を買い取っても構いません。
ただし、中小企業の場合、見ず知らずの人が株主になって会社に関わるのを排除するという目的で、株式を売買したら、会社の承認を得なければいけないというルールにしている場合があります(これを、非公開株式といいます)。会社の定款にこのような定めがある場合には、株式の売買について、会社による承認手続も忘れず行いましょう。
(2)自社株買い
株式の買取を、株式を発行した会社自身が行うことを自社株買い、自己株式取得といいます。
自社株は会社のお金を株主に流出させるという側面があるので、会社の債権者からすると会社の財産を減らされるという不安が伴います。そのため、自社株の取得は、剰余金の分配可能額の範囲内でしか行えません(会社法461条)(剰余金の分配可能額の計算は、会社法446条、461条2項に規定されていますが、ここでは割愛します)。
会社のお金が流出するというのは、株主全体にとっても関心事でもあります。そのため、自社株買いを実施することは事前に株主総会の決議(過半数で決する普通決議)が必要です(会社法156条)。
さらに、株主全体から広く株式の買取を募集するのではなく、特定の株主のみから買取る場合には、株主総会の決議は普通決議ではなく、特別決議(3分の2以上で可決)が必要になり(会社法160条)、株主間の公平を図るため、買取の対象となっていない株主からの売却の機会を与えなければいけません(売主追加請求。会社法160条2項、3項)。
なお、会社が買い取った自己株式には、議決権はありません。つまり、株主総会で票にカウントされないのです。
会社は買い取った自己株式をそのまま持っておくこともできますし、適宜、必要となる株主総会や取締役会の決議を経れば、第三者に売却したり、償却(消滅させること)することもできます。
(3)所在不明株主の株式売却許可
株主の所在がもはや不明になってしまっており、一定の要件に当てはまる時は、裁判所の許可を得て、その株主の保有する株式を売却することができます。
具体的には、5年間継続して株主総会の招集通知が株主に届かず、かつ、5年間継続して配当金の受取がなかった場合です。
これは裁判所の手続になるので、要件を満たすことを示すための資料を示さなければならず、煩雑ですが、いわば強制的に株式を売却に出すことができるので、所在不明になってしまった株主の問題を抜本的に解決することができます。
(4)売渡請求
裁判所の手続を経ない方法として、特別支配株主による売渡請求という制度があります。
特別支配株主とは、その会社の株式を90%以上保有する株主です。この株主が会社に対して、自分が保有する以外のすべての株式を買い取りたい、と売渡請求をします。会社は提案された買取条件を検討し、会社が承認すれば、この特別支配株主による少数株の買い占めが実行されます。
要注意なのは、特別支配株主は、すべての株式を買い取らなければならないということです。この株主からだけ買い取るとか、数株だけ買い取るというのはできません。
5 事例の解決策
冒頭に紹介した事例の場合、株主であるBCはすでに5年以上、連絡が取れない状態でしたから、所在不明株主の株式売却許可の制度を利用できるでしょう。
ただし、AがこれまでBCに対して、株主総会の招集通知すら送っていなかった場合は、5年以上音信不通となっている事実を示すことができませんので、今後5年をかけて、株主総会の招集通知を送り、要件を満たすように実績を作っていかなければなりません。
6 まとめ
すでに経営から退き、株主総会に参加する気がないと思われる株主でも、株主は株主です。所在不明株主の対応には、いずれも煩雑な手続きが必要になります。所在不明株主を生まないためにも、株主としての権利、株主に対して行わなければならない手続を無視しないようにしましょう。










