コラム

休職を繰り返す社員に接する時の10のポイント

休職を繰り返す社員の中には、本当に傷病に苦しんでいる社員もいれば、休職制度を悪用して休んでやろうという社員もいます。そこまで悪気はなくとも、休職を繰り返すうちに復職への意欲が減退してしまう社員もいます。社員の状況や本心がどんなものかは計りかねますが、いかなる場合でも、会社として隙のない対応が求められます。今回は、休職を繰り返す社員に接する際、注意しておきたい10のポイントをお伝えします。

1 辞めたい社員はいない

まず肝に銘じなければいけないのは、休職制度を利用している社員で、会社を辞めたいと思っている社員はいないということです。これを忘れて、辞めることを前提に話を進めたりするとトラブルになってしまいます。

真面目に病気治療に専念している社員でも、制度を悪用して会社を休んでいる社員でも、辞めたいのなら自分から辞めています。会社に在籍していられるということが前提で休職しているのです。もちろん、働かずにいつまでも会社に在籍できる訳ではありませんが、社員の本心を無碍に扱うと対応に失敗してしまいます。

2 辞めさせる圧力をかけない

休職制度の適用を受ける間は、社員は制度に守られています。そのため、他の人と同じように働けないのなら辞めろとか、休職明けて仕事があると思うなよと言うような圧力ある態度で臨んではいけません。

そもそも、休職制度は会社が任意で設置した制度です。自らが設置した制度を社員が利用したら辞めさせるというのは間違った対応ですし、辞めさせる圧力をかけると間違いなく社員とこじれてトラブルになります。

3 休職制度の趣旨を伝える

休職とは、解雇の猶予制度です。相当期間に渡って働けないのであれば、本来は解雇に値します。それを休職させることで、直ちに解雇することを猶予して、回復する機会を与えるのです。そのため、休職期間を明けても復職できなければ、退職となります。

会社は無理に辞めさせるつもりはないという態度を取りつつも「あなたは解雇を猶予されている状態だ。この状態がいつまでもそのまま続く訳ではない」というメッセージを発し、制度の趣旨を社員にきちんと理解させる必要があります。そうしないと、いざ休職期間の満了に伴って退職措置を取る時、社員が納得せずに揉めてしまいます。

これは、会社の側にも言えることで、形式的に会社の規定に当てはまっていたとして、それが解雇に値するほどのことなのか、立ち返って退職とするのかを考えなければいけません。例えば、多くの会社では、休職期間が6ヶ月ほどにされており、その間に復職できなければ退職となります。ですが、例えば、癌など大病を患った社員が6ヶ月治療に専念して、7ヶ月目に職場復帰できなければ、本当にそれで解雇に値する状態といえるでしょうか。休職期間の延長を認める規定を置かなかったり、そもそも休職期間を短く設定しすぎたりすると、形式的に休職満了による退職の規定を適用しても、無効になってしまいます。

4 会社の制度を伝える

社員にとっては、会社の制度や規定は日頃見ることのないものです。休職制度はその背後に退職を控えているものであることからすると、休職を利用し始める時点で、会社の休職制度がどういうものか、つまり、休職期間はいつまでで、復職できないとどうなるのか、休職を繰り返すとどうなるのか、など、一連の流れを伝えるべきでしょう。そうすれば、「安心して休職したのに、不意打ちで辞めさせられた」とトラブルになることもありません。

また、会社の休職制度以外にも、休職中に利用できる制度、一般定なもので健康保険の傷病手当金のことはきちんと伝えましょう。休職中の収入補填になります。

5 体調を最優先させる

社員が本当に傷病に奮闘している場合でも、休職制度を悪用して休んでいる場合でも、会社のスタンスとしては体調の回復を最優先させなければいけません。案外、休職制度を悪用している方としても、会社から正面切って「あなたは病気で苦しいでしょうから、どうぞ回復に専念してください」という態度を取られると、ヘタに矛盾するような行動を取れないため、やりづらくなるものです。疑う態度を示すよりも、体調を最優先させるべきです。

また、このことは、休職を開始する時だけにとどまりません。例えば、休職中に体調に負荷をかけるような私生活上の行動がみられた場合には、事実確認をして、主治医の許可を得ているのかどうか等を確認の上、療養に専念させるべきですし(遊ぶために休職させている訳ではない)、焦りの気持ちから治りきっていないのに復職しようとする者には、仕事に戻れる程度に回復するまで仕事には戻せないことを告げるべきです(体調不良が回復していないと知りつつ仕事に戻し、悪化させてしまった場合、会社の安全配慮義務を問われるリスクがあります)。

6 診断書を提出させる

休職というのは、特別に労働を免除して解雇を猶予する制度ですから、その前提となる体調不良には確たる根拠が必要です。つまり、体調不良の存在やその程度、どれくらいの休職を要するかは、基本的には診断書を提出させて判断します。口頭で体調不良を訴えるだけでは、休職は開始できず、診断書の提出が必要と考えましょう。もしも会社から指示されている(きちんと業務命令書で受診を命じましょう)にもかかわらず、頑なに診断書を提出しない場合には、傷病の存在自体を疑うべきケースもあります。

このように、休職を開始するか、休職中の生活に問題がないか、復職の時期をどうするかは、すべて医師の診断を根拠とします。会社としては、場合によっては主治医と直接面談をし、話を聞きたい場合もあるでしょう。その場合には、患者本人の同意が必要となります。その時に備えて、休職を開始する時点から、社員には医師面談のことを説明し、同意書を得ておきましょう。もちろん、実際に医師面談をする時にはあらためて社員本人に説明をし、その時点での同意の意思を確認するほか、医師面談への同席を求めるようにしましょう。

7 産業医面談の実施

診断書、すなわち医師の診断が必要といっても、社員が自身で選んで通っている主治医の判断だけでは、心もとない場合があります。主治医は基本的には患者の味方ですから、患者に言われるがまま診断書に症状や療養期間を記載している場合もありますし、メンタル系の病院だと、かんたんに診断書を出してくれると口コミになっているようなところも存在します。なにより、主治医は患者の苦しみを緩和させるという視点から治療に臨みますから、仕事をするうえで患者がどの程度の負荷に耐えられるかという視点が十分ではありません。

そこで、利用できる場合には、産業医にも受診させ、産業医の意見を参考にするようにしましょう。産業医は、自社が業務委託などで依頼することになるので、産業医を持つことはコストがかかることでもあります。社員50人未満の会社では産業医の選任の義務はないので、産業医がいない場合も多いです。

産業医が用意できない場合には、最低限、次の2つの措置を講じられるよう、就業規則に規定したり、あらかじめ休職する社員に説明したりして同意書を得ておくようにしましょう。

2つの措置とは、(1)会社が主治医と面談することへの同意、(2)会社の指定する別の医院へ受診し、セカンドオピニオンとして診断を受けてくることへの同意です。

これによって、万全とはいえませんが、社員が持ってくるままの診断書を鵜呑みにするしかない状況にならないよう、対策を講じることができます。

8 休職中の報告義務

一度休職に入ると、次に社員が復職可の診断書を持ってくるまで、社員の様子が全く把握できなくなるといった状況は、会社としても困ってしまいます。ある日いきなり復職できると診断書を持って来られても、会社としては本当に復職できるのか、どのような仕事ならこなせるのか、不安を覚えます。また、休職中は療養に専念すべきなのはもちろんのことですから、休職中の過ごし方について、ある程度会社の目が届くかたちにするのが望ましいです。

そこで、休職中の病状や活動について、報告義務を課すべきでしょう。好ましいのは、就業規則に報告義務を明記することですが、就業規則に明記がない場合も、会社から定期的に連絡を取り(メールや書面など、かたちに残る方法で)、報告を求めましょう。

報告の内容としては、通院の頻度、治療の内容、薬の有無や内容、私生活上の取り組み(広く報告させ、遊びや副業をしているようであれば指導する)、会社の関知した私生活上の行動に対する説明を求める、などになります。

万一社員が報告をしなかったり、適当な報告をする場合にどうするべきでしょうか。報告が不良というだけでは、詐病とはいえませんので、直ちに休職を解除したり、懲戒することはできません。ただ、休職を開始する際の診断書や復職を認める診断書との矛盾がないか精査する材料にはなりますので、疑念が生じた場合には、社員に対して指摘をし、説明を求め、主治医への面談を求めるなどしましょう。それらも拒否する場合には、復職をさせてほしいと申し出てきた際、復職の可否を慎重に判断しましょう。それまで会社との接触を拒否してきた社員が、いきなり復職可能と診断書を持ってきても、かんたんには信用できませんので、時短勤務からの復職など復職にステップをつけたり、復職後の受診や報告の義務を課すなどが考えられます。

9 復職基準の設定

休職から復職させる際には、復職を認める基準を就業規則に明記しておくのが望ましいです。規定しないといけないということではありませんが、規定しておかないと、会社の側が復職させるかどうかの判断を誤ることにもつながります。

復職とは、休職前と同じ業務を同じ程度にこなせることではありません。休職前の業務への復帰は困難であるが、同職種で同程度の経歴の者が配置される現実的な可能性のある他の業務であれば復帰が可能で、本人も他業務での復帰を申し出ている場合であれば、復職を許可しなければいけません。つまり、軽減業務や別の種類の業務であっても、実際にやらせることができる業務があって、社員本人も拒否しないのであれば、その業務をやらせなければいけないということです。

完全に元の業務に復帰できないのなら、復職は認めない、休職期間満了で退職だと扱うのは間違いですので、気をつけなければいけません。

10 再度の休職に関する規定

復職してもすぐに欠勤がちになってしまう、あるいは、数か月後にまた同じ傷病で休職を申し込むような場合の対処についても考えておかなければなりません。休職制度はあくまで一時的な解雇猶予制度ですから、十分に働ける状態に戻らない以上、退職を検討するべきです。しかし、きちんと就業規則で制度設計をしておかないと、かたちだけ一時的に復職し、また繰り返し休職制度を利用することが可能になってしまいます。

繰り返しの休職を防ぐためには、まず、「復職の取消し」の規定を作りましょう。これは、復職後数か月(1か月~3か月くらいの期間が目安)のうちに、ふたたび欠勤、遅刻、早退が見られるようになったり、体調不良から仕事についていけなくなった場合、結局まだ傷病が回復していなかったのだと認めて、復職を取り消し、休職の状態に戻すものです。復職の前後の休職は、一連のものと考えます。そのため、復職前の休職で、休職期間をめいっぱい使い切ってしまっていた場合には、復職取消し=休職期間内での復職ができなかった、ということになり、即座に退職を迫られることになります。

そして、「復職の取消し」を判断するためにも、復職をさせる際には、個々に「復職プログラム」を作るようにしましょう。例えば、1週目は週の半分以上を時短勤務で出勤する、2週目は週の全日を時短勤務で出勤する、3週目は週の半分以上をフルタイムで出勤する…などです。そして、1つのステップをクリアできないと、1つ前のステップに戻すなどして、結果、最初の段階のステップもこなせなかったり、何週間も最初の1,2段階目で留まるような場合や規定の期間内に復職ステップをすべてクリアできない場合に復職の取消しを行います。そのため、「復職プログラム」は最低限ここまでできてくれないと、働けるように回復したとは認められないというようなレベルに設定しておくのが無難でしょう。

また、復職の取消しとはちがう場面にはたらく制度として「休職期間の通算」や「休職期間の短縮」があります。これは、一旦は復職に成功したけれども、しばらくして(復職後半年~1年くらいの期間が目安)また「類似の疾病」で休職をした場合、再度の休職では、前回の休職期間と通算したり、休職期間を短縮したりするものです。これは、結局は同じ傷病の再燃だと捉えられる場面に対処する制度です。一度治ったものとして復職しても、仕事の負荷が重なるうちに再度の休職になることがあります。本来なら、働いているうえで、一度しか傷病で休めないというわけではありませんので、本来は休職制度を何度使ってもいいのですが、そのスパンが短い場合には前回の傷病が再燃したものと捉えて、休職期間を制限するべきといえます。

11 まとめ

休職が仮病による可能性がある場合でも、本当に傷病に苦しんでいる場合でも、会社のスタンスとしては同じです。社員の健康と職場の生産性を両立させるため、先入観や意図を出さないよう、いかなる場合でも公平公正な対応をこころがけましょう。

   
    
PAGE TOP