コラム

減給に同意しない社員対応でミスらない5大ポイント

会社の経営が厳しい、今まで給料を高く設定しすぎていた、能力不足で給料を減らしたい。様々な理由で減給を検討する場合がありますが、その理由や給料の性質によって注意点は変わってきます。今回は、減給を検討する際、気をつけなければならない5つのポイントをお伝えします。

1 ポイント1 給料の性質を見極める

まず、給料というのは、会社が社員に対して支払いを約束している具体的な権利であるため、かんたんには減らすことはできないという認識を持ってください。「不利益変更の禁止」という言葉があり、あらゆる労働条件について、会社が社員に不利益に変更することは禁止されているというのが原則になります。そのうえで、減給するのであれば、相当気をつけて不備のない対応をしなければいけません。

そこで、まずは給料の性質を意識しましょう。給料の中には、基本給をはじめ、様々な手当があります。その中のどれを減らすのかを意識し、その費目の性質を意識しましょう。例えば給料を(1)基本給(2)役職給や能力給(3)特定の業務に関連する手当(4)福利厚生的な手当に分類してみましょう。

このうち、(1)基本給のような、能力や地位に関係なく、仕事をしているからもらえるような給料は、減らすことはできないと考えましょう。欠勤など仕事をしていない場合(欠勤控除)や会社が倒産危機にある場合でなければ、減給の対象にはできません。

(2)役職給や能力給は、一定の役職や能力水準に達していることによって支給されるため、その支給対象や支給基準を外れた場合には、支給されないことになります。一方で、一度獲得した仕事の能力や役職を失うということは基本的にありませんので、減給する時は、支給基準の判定が正しいのかに注意しましょう。

(3)特定の業務に関連する手当は、その業務がなくなった場合、その業務の負担感、売上、社内での重要性が変化した場合には減給の検討対象となります。

(4)福利厚生的な手当は、支給基準を満たさなくなった場合や、その福利厚生の社会的な重要性等が変化した場合には減給の検討対象となります。どのような福利厚生を行うかは、会社の裁量(自由)が大きい一方、社員としては生活の拠り所としている心理が強いため、社員の理解が得られるのか、丁寧な対応が必要です。

また、どのような性質の給料であったとしても、会社の経営不振がある場合には減給の対象となります。しかし、その場合にも、軽々に減給が認められるのではありません。減給を実施すると、今後ずっと、社員の収入は下がってしまい、生活への影響が大きくなります。そのため、会社が減給の他に経営改善の努力をしたか、その減給をしなければ構造的に経営改善ができないといえるのか、直ちに減給を実施しなければ経営危機に陥るような緊迫した状況にあるのか、厳格に判断されます。「売上が減少傾向にあるから」という抽象的な理由だけでは減給はできず、具体的に1四半期後、半年後、1年後の経営状況を想定しつつ、減給が必要だといえなければいけません。

2 ポイント2 勝手に減給しない

いくら社員が減給に同意しないと言っても、強引に減給を実施してはいけません。勝手に来月からの給料を減額した場合、中には文句を言えずにそのまま従う社員がいるかもしれません。ですが、法的には減給の措置は無効な状態です。社員がおかしいと声をあげ、法的な手続に訴えれば、会社は減給措置を行った時に遡って差額を支払わなければいけなくなります。

3 ポイント3 説明を尽くす

ポイント1で触れた、どの性質の給料を減額する場合であっても、また、減給の理由がどのようなものであっても、会社から社員へ説明を尽くすことが重要なポイントとなってきます。

これは、丁寧に説明を行い、社員の納得を得る努力をすることで、社員との対立を避けることができ、紛争化するリスクを下げることができるからです。例えば、社員の能力不足を理由に減給を検討している場合だと、想像しやすいでしょう。その社員の普段の働き方がどういったものなのか、会社がその社員をどう評価しているのか、会社の評価と給料の金額がどのようにつながるのか、具体的に説明をし、社員の側にも事態を受け止める機会を与える方が、はるかに揉めにくくなります。

また、減給の説明を尽くすべきもう1つの理由として、減給による「不利益変更」の有効性を判断する要素の1つに、会社が社員の納得を得る努力をしたかどうかがあるからです。

結果論的な言い方ですが、社員、あるいは第三者からの見方をした時に、「それならば減給も仕方ない」と言える理由がきちんとあるのでれば、法的にも有効な減給の場合が多いといえます。一方「なんで減給なのか」「会社は他にもやれることがあるのではないか」と納得を得られないのであれば、会社の方も、本当に減給すべき理由が万全なのかを立ち止まって考えるべきでしょう。社員からすると、会社の資金繰りや経営状況は見えません。ともすれば、会社は安易に減給をして、社員の犠牲のもとに経営しているとも見えてしまいます。減給は、社員の士気を低下させる恐れがあるため、会社は、説明の機会を惜しまず、社員への説明責任を果たす必要があります。

4 ポイント4 減給のルールを守る

会社が一方的に行う減給は、無効となってしまいます。そうならないためには、減給するための法的手続を守ることが必須となります。

まず、減給は、ある1人を対象にする場合と、社員全員(あるいは特定の区分の社員)を対象にする場合に分けられます。

ある1人の社員を対象とする場合、かんたんに言ってしまうと、その人から同意書を得れば、減給を実施することができます。ですが、形式的に同意書にサインしてもらえばよいというわけではなく、真意に基づく同意が必要です。真意かどうかというのは判定が難しいですが、社員は収入が減る訳ですから、本来は真意での同意をするはずがないという見方から出発することになります。そこで、減給の理由、必要性、会社側の努力等について、どのように社員に説得的に説明し、同意を得たのかというのが非常に重要になります。

次に社員全員(あるいは特定の区分の社員)を対象にする場合、社員から個別の同意が得られなくても、賃金規程という社内の給料のルールを定めた規定を改正すれば、減給が可能になります。しかし、この場合にも「不利益変更禁止」のルールが適用されるため、しかるべき手続を取ったうえでなければ、減給は無効になります。減給の不利益変更を行うためのルールは、かんたんに言うと(1)減給を実施する具体的かつ高度な必要性があること、(2)減給の対象や金額が合理的に限定されていること、(3)社員の納得を得る努力を十分に行ったこと、(4)代替措置を講じたことが必要になります。そして、これら4つの要素は、とても厳格に判断されます。「会社経営の先行きが不安だから、今から大幅な減給をして会社にお金を蓄えておこう」という程度の状況では認められません。業界に構造的な不景気や競合が存在していて、競争力を高めるために社員の営業力の向上が必要であるから、基本給を減額してその一部を歩合給に変更することにした、など、具体的で必要かつ社員への負担を最小限にすることが求められます。

5 ポイント5 代替措置を設ける

減給を実施することにより、社員は今後の収入がずっと減った状態になってしまうのですから、その経済的な不利益を緩和するために、会社は金銭的な代替措置をするべきです。この代替措置は、必須の要素とまではされていませんが、多くの裁判例でその重要性が指摘されています。やはり、お金の問題ですから、お金で補填することが重要になるわけです。

ちなみに、この代替措置は、ある一人の社員に対して、減給する場合には、問題となりません。社員全員(あるいは特定の区分の社員)を対象に会社全体として減給を実施する場合にフォーカスされます。なぜなら、ある一人の社員を減給する場合は、多くの場合、能力不足や役職からの降格など、その社員個人の働きに対する評価の表れとして減給をするからです。その給料に見合う働きがないから減給したのに、代替措置で金銭的に補填をするということは行いません。一方で、社員全員(あるいは特定の区分の社員)を対象に減給する場合は、社員の働きとは関係なく、経営不振や業界構造の変化を理由に減給を行い、いわば社員に痛みを迫ることになるため、金銭的な補填として代替措置を行うのです。

この代替措置とは、かんたんに言うと、手当の数年間の継続というかたちで行うことが多いです。例えば、基本給の減額や、ある手当を廃止する場合、他の名目の手当を一時的な救済措置として支払うことにします。また、別の方法として、減給を数年間かけて徐々に行うなどの方法もあります。

この代替措置ですが、概ね、3年~5年間継続することが多いといえます。逆に、代替措置を2年で打ち切ったような裁判例では「代替措置が不十分だった」と判断されて、減給が無効にされるものが目立ちます。

6 まとめ

法律上、給料というのは、社員の権利であると捉えられています。そのため、きちんと法的なポイントを押さえなければ、減給を行うことはできません。社員にとって減給は大きな不利益となるため、実施する際は、十分な話し合いと合意形成を図ることが重要です。社長の鶴の一声で減給できる訳ではないので、注意しましょう。

   
    
PAGE TOP