コラム

診断書で決まる。休職した従業員の復職までの3ステップ

休職において大切なのは、休職させるまでよりも復職させる時です。復職の判断は本人だけでなく職場の管理職にとっても疑問や不安は少なくないかもしれません。特にメンタル不調による休職の場合、目に見える不調ではないことから復帰の明確な判断基準を設けづらく、困惑するケースもあると思います。多くの例で復職を認めず退職させたことで裁判になっています。復職までにどんなステップを踏む必要があるのか、ご紹介します。

1 復職と「治癒」

(1)復職のための条件

病気やメンタルヘルスが原因で従業員が休職した場合、それらが「治癒」した場合には休職を解いて復職させることになります。

休職した従業員、特にメンタルヘルスの不調が原因で休職した場合の復職のさせかたについては、厚生労働省が「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」という手引きを公開しています。

(2)治癒の意味

「治癒」とは、健康状態が完全に回復していることではありません。会社で働かせられるか、という見方から治癒を判断します。そのため、会社で実際に従事させることができる業務がある場合には「治癒」したと判断されます。

少し難しい言い方ですが、判例でも「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」という表現で、このような場合には治癒したと認めて、復職させなければいけないと示しました(片山組事件=最判平10年4月9日労判736・15)。

(3)会社の心がまえ

つまり、休職前に従事していた業務をこなせるまでに回復していなくても、他になんらか与えられる業務がある場合には、「治癒」したと認めて復職させなければいけないのです。

例えば、従前の業務の業務量を減らしたり、別の業務でより負担の少ない業務があれば、それをさせなければいけないということになります。会社としては、休職した人が出た時点で、復職を見据えて任せる業務を探しておくことになります。「それは別の人がやっているから、もう他にやらせる業務はない」といって復職させずに退職させてしまうと、復職させられるのにさせなかったということになり、復職のルール違反になる可能性があります。

2 ステップ1 医師による判断

では、「治癒」したことは何を材料に、誰がどのように判断するのでしょう?

「治癒」したと判断するのは、会社になります。そのために最も大切な材料が、医師による診断です。ですが、仕事をさせられるかという意味での「治癒」と、主治医が思う治癒とは異なる場合があります。主治医というのは、会社での働き方への理解や労働法への理解が十分あるとは限りません。主治医は「日常生活において支障をきたさないか」を中心に診ているため、仕事をさせられるかどうかという視点がなく、治癒したかどうか判断している場合があります。患者である従業員から熱心に訴えられて治癒したと判断する場合もあるでしょうし、会社を離れた家庭での生活状況だけをもとに治癒したと判断する場合もあるでしょう。そのため、主治医の診断書は必ずしも「職場で求められる業務遂行能力まで回復している」という証明にはならないことについて留意しましょう。

会社としては、産業医を用意し、産業医の診断を利用するほか、主治医への聞き取りをして、本当に復職できるかどうか、どれくらいの業務負荷に耐えられるのかを判断するのが賢明です。ただし、主治医への聞き取りをするためには、患者である従業員本人の同意が必須になります。従業員を伴っていないと主治医に会えない場合もあります。いきなり主治医に会いたいと言い出すのではなく、休職を始める時から、従業員本人にそのことを了承させておくなど、従業員を通じて医師に伝えてもらうようにするとスムーズでしょう。

このように、医師の判断が絶対正しいというわけではありませんが、それでもやはり、復職をさせるか判断するうえで最も有力な判断材料は医師の診断書になります。他に否定する材料もなく、診断書を無視した判断をするのはやめましょう。

3 ステップ2 復職のさせ方の決定

復職が可能と判断した場合には、どのように復職させるかを決めます。その際、直ちに従前の業務ができる状態になくても、業務の量を調整したり、他の軽い業務をさせる必要があります。いわば、本調子になるまでのステップづくりをしなければいけません。

どのようにステップづくりをするのかは、主治医の診断、本人の意思を参考に、会社に設置があれば産業医や衛生委員会の意見も取り入れて決定します。

軽易な業務や短時間の業務から始めさせてみたけれど、それでも休みがちになってしまったり、復職したことで再びメンタルヘルスや健康状態が悪化してしまった場合は、治癒したとは認められないことになります。再度、休職命令を出して休職させるか、もう休職期間いっぱい使い切ってしまっている場合には退職させることになります。

復職と関連する制度で、「リハビリ通勤制度」というものがあります。これは、復職前の休職中の段階で、会社に来させ、会社で一定の時間を過ごし、帰宅させるという、いわば出勤の練習をするものです。法定の制度ではなく、実施するかは会社の任意です。

リハビリ通勤制度を実施する場合、注意点が2つあります。1つは、休職中であるので、業務はさせないということです。もう1つは、休職中なので出勤しても給与の支払いは不要ということです。

復職をスムーズにするための慣らしの制度なので、従業員が希望しない場合や、回復の度合いからしてリハビリ通勤は負担が大きすぎる場合は、実施を見送りましょう。このリハビリ通勤制度での様子を復職の判断で参考にすることはできます。

4 ステップ3 復職後のフォローアップ

復職をさせたら、その後は復職後の勤務状況をチェックしましょう。休職中は業務の負担を離れているので順調に回復していたとしても、復職により、再び体調不良があらわれることは十分考えられます。

・体調面や仕事の負荷について本人からの聞き取り

・上司からの聞き取り

・治療状況の確認

これらの情報収集を行なったうえで

・復職プランの見直し

・職場環境の改善

・上司や同僚による配慮

など、具体的な行動に結びつけましょう。

5 復職できない場合の結末

休職期間を満了する時に治癒していない場合、復職後の再び不調になり働けない場合、復職のステップを見直してもついてこられない場合には、治癒とは認められず、退職させることになります。

退職させるまでの間に、注意してほしいことが2つあります。

1つ目は、一旦復職している場合には、さらに業務を軽減するほか、再度休職させるなど、退職以外にできることはないか、すべて実践するように心がけましょう。退職というのは、従業員にとっては最後通告です。最終手段をとる前に、会社としてやるべきことはすべて手を尽くしたといえる状態にするのが望ましいです。

2つ目は、退職措置とする前に、従業員と話し合って、退職願(退職届)を出してもらえるのなら出してもらい、合意して退職したかたちにしましょう。その方が、一方的に会社が退職扱いとするよりも格段に揉める可能性は減るからです。

6 まとめ

一旦休職をさせると、復職させるまで気が抜けません。むしろ、大切なのは復職のプロセスになります。休職者本人の負担や会社の生産性低下といった損失につながらないよう、再発予防の観点から復職支援を考えていくことが重要です。最後まで気を抜かずに、公正な対応を心がけましょう。

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